無邪気に突き上げる若手選手がもたらすパワー。アルビレックス新潟・奥村仁と石山青空が示した確かな成長と躍動
大白鳥のロンド 第11回
まさに試練の5月。アルビレックス新潟は5連戦を迎えていたにもかかわらず、ベンチメンバーを含めて、ギリギリの人数での戦いを余儀なくされていた。ただ、その苦境は若手選手の躍動という嬉しい“副産物”も連れてくる。とりわけ大卒ルーキーの奥村仁と、U-18から昇格してきたルーキーの石山青空は、明確なゴールという形でチームの勝利に貢献してみせた。着実に成長を続けてきた彼らがここに来て実力を発揮している要因を、おなじみの野本桂子があぶり出す。
負傷離脱者が続出。試練の5連戦に指揮官が明かした胸中
アルビレックス新潟にとって、試練の5月だった。
5月に入ってからというもの、宮本英治、高木善朗、長谷川元希、長谷川巧、舞行龍ジェームズ、星雄次と、1試合に1人ペースでゲーム中に負傷離脱者が出続けた。
5月11日のJ1第13節・浦和レッズ戦(●2-4)から5連戦が始まると、J1第14節・横浜F・マリノス戦(○3-1)以降は、ベンチをギリギリ満たせる選手しかいない状態で戦うことを余儀なくされた。
5連戦の4戦目となったJリーグYBCルヴァンカップ1stラウンド3回戦・ブラウブリッツ秋田戦(○2-0)は、JFA・Jリーグ特別指定選手の稲村隼翔(東洋大)、笠井佳祐(桐蔭横浜大)の両名が先発して活躍。中2日で戦ったJ1第16節・アビスパ福岡戦は、稲村と笠井が大学に戻ったため、負傷明けの堀米悠斗、森璃太をベンチ入りさせる形になった。
5連戦を終えた後の会見で、松橋力蔵監督は「言い訳に聞こえるかもしれないですけど、(疲労は)間違いなくあったと思います。でも、本当によくここまで……ここまで続けられるかというのは、常に不安なところでもありましたし、選手はそこを乗り越えてくれた部分もあったので、そこは非常にポジティブに捉えています」と苦しかった胸中を明かしている。
しかし、悪いことばかりだったわけではない。
この苦境でチームの光となったのは、屈託なく躍動するフレッシュなパワーだった。大卒ルーキーの奥村仁と、高卒ルーキーの石山青空。彼らは待ち望んでいた出場機会を得ると、物怖じすることなくプレーし、結果を出して勝利に貢献してみせたのだ。
奥村仁が手繰り寄せたJ1初ゴール。横浜FM撃破の一翼を担う
初先発で初ゴール。それを最初に成し遂げたのは、関西福祉大から加入したルーキー・奥村仁だった。
J1第14節・横浜FM戦。相手に先制されたが鈴木孝司と谷口海斗の得点で2-1とした82分、ダメ押しとなる3点目を決めた。敵陣で得たスローインの流れで右の“ポケット”が空いた瞬間、そこに藤原奏哉がパスを通す。同時にそのスペースへ走り込んでいた奥村は「ペナルティエリアの中だったので、ゴールしか考えていなかった」。シュートコースがないと判断するや切り返し、左足で浮かせてGKもDFも触れない絶妙な高さでネットに突き刺した。
狭いエリアでもボールを受け、ドリブルでチャンスを生み出せる。またディフェンスラインの背後への飛び出しも得意としている。そうした奥村らしさが詰まった巧みなJ1初ゴール。無意識にゴール裏へ走り出すと、ベンチからも仲間たちが押し寄せ、もみくちゃにされながら喜びを分かち合った。……
Profile
野本 桂子
新潟生まれ新潟育ち。新潟の魅力を発信する仕事を志し、広告代理店の企画営業、地元情報誌の編集長などを経て、2011年からフリーランス編集者・ライターに。同年からアルビレックス新潟の取材を開始。16年から「エル・ゴラッソ」新潟担当記者を務める。新潟を舞台にしたサッカー小説『サムシングオレンジ』(藤田雅史著/新潟日報社刊/サッカー本大賞2022読者賞受賞)編集担当。24年4月からクラブ公式有料サイト「モバイルアルビレックスZ」にて、週イチコラム「アイノモト」連載中。