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エバン・ファーガソンら逸材続々…育成大国を目指すアイルランド

2024.05.26

TACTICAL FRONTIER進化型サッカー評論#4

『ポジショナルプレーのすべて』の著者で、SNSでの独自ネットワークや英語文献を読み解くスキルでアカデミック化した欧州フットボールの進化を伝えてきた結城康平氏の雑誌連載が、WEBの月刊連載としてリニューアル。国籍・プロアマ問わず最先端の理論が共有されるボーダーレス化の先に待つ“戦術革命”にフォーカスし、複雑化した現代フットボールの新しい楽しみ方を提案する。

第4回は、ブライトンのエバン・ファーガソンやバーンリーのダラ・オシェイ、リバプールのクィービーン・ケレハーなどを輩出するアイルランドの育成事情に迫る。

アイルランドの若手は、なぜ「狙われる」のか?

 EURO2016でセンセーションを巻き起こしたアイルランド代表を牽引したロビー・ブレイディとジェフ・ヘンドリックは、アイルランドのフットボールでも育成の名門として知られる「セントケビン・ボーイズ」の出身。彼らは1992年に生まれた同い年のプレーヤーであり、幼少期から一緒にチームメイトとして成長してきた。

 近年のセントケビン・ボーイズ出身者の代表格は、ブライトンでの活躍で注目を集めるエバン・ファーガソンやバーンリーのCBのダラ・オシェイだろう。最近はケガに苦しめられているファーガソンだが、広いエリアからゴールを狙っていくプレーや味方の起点になるようなプレーにも柔軟に対応する、現代型のストライカーだ。精神的にも成熟しており、セントケビン・ボーイズ時代には多くの指導者からのアドバイスをしっかりと吸収し、少しずつ成長していった。そのフィジカルに依存しないプレースタイルは、「後方からボールを大事に繋いでいく」というセントケビン・ボーイズの指導哲学によって鍛えられたものだろう。同クラブは23-24シーズンにも FAI(アイルランドサッカー協会)でのユースカップを制覇するなど、変わらずアイルランド屈指の才能を育て続けている。

 今ヨーロッパのトップクラブでは、アイルランドのアカデミーから多くの選手を引き抜いている。アイルランドの選手を安価なミドルティーンの年代で購入し、アカデミーで数年を経た後にデビューさせようとしているのだ。

 特にプレミアリーグのクラブにとっては、英語が喋れるというメリットは大きい。セントケビン・ボーイズからも、多くの選手がヨーロッパのクラブに移籍している。FWのケビン・ゼフィ(ローマU-19)、CBのシーン・グレハン(クリスタルパレスU-21)、MFのジェイミー・マリンズ(ブライトンU-21)、デイビット・オカグブー(ストーク・シティからローンされ、現在はウォルソールFC)というように、今後を担う世代が育っている。

 今季リバプールでアリソンの負傷というトラブルを解決したクィービーン・ケレハーは15歳でリバプールのアカデミーに引き抜かれており、若手でも屈指のGKとして知られるギャビン・バズヌは16歳でマンチェスター・シティに移籍してユースチームで経験を積んだ後、サウサンプトンに移籍している。マーク・トラバースもボーンマスのユースチームに引き抜かれており、アイルランドの多く逸材GKたちがイングランドで主力として活躍している。

カゼミロのシュートに反応するケレハー

新たなGK王国を支える、若手指導者への投資

 若手指導者の抜擢にも定評があるアイルランド代表は、特に若くしてヨーロッパで指導者としてのキャリアをスタートしたメンバーを積極的に登用している。……

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Profile

結城 康平

1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。

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