大変?安い?でも意外と人気?サッカークラブの社員採用ってどうなっているの?
“新興サッカークラブ”の競争戦略
J30年目に新しいクラブをつくるリアル#4
徳島ヴォルティスでプレーした元Jリーガーで、サッカー選手のステレオタイプを疑うユニークな記事発信で話題になった井筒陸也は現在、本人が「ベンチャーサッカークラブ」と語るクリアソン新宿で広報とブランディングを担当している。『敗北のスポーツ学』でもテーマにした「勝つこと」以外にも価値を見出す異質なメガネを持つ彼の目から見た“新興サッカークラブ”のリアルな舞台裏、そこから見える新しい時代を生き抜く競争戦略とは?
第4回は、謎に包まれているサッカークラブの社員採用について、近年のトレンドも含めて実際のところを解説してもらおう。
サッカークラブおいて、選手の進路というものは大きな話題になる。昨今、移籍情報をリークするようなアカウントが乱立し、少なくないインプレッションを獲得しているのを目にする。チーム内の人間か、代理人か、またはメディアの片隅にもおけない輩がオフレコの話をリークして、その承認欲求を満たしていると思うと暗澹たる気分になる。まあそれはさておき、とにかくこの夏この冬、どの選手がどの組織に入るのかというのは、それだけ大きな関心事項ということである。
一方で、あたりまえだが同じサッカークラブでも、その社員がどのようにして採用され、または移籍をしているのかは謎に包まれている。実際は特に謎に包まれているわけでも包んでいるわけでもなく、Jリーグのクラブであっても多くは規模的には数名〜数十名規模の中小企業で、多くがいわゆる新卒採用はしていないだろうし、採用があってもピンポイントで単に話題に上がらないというだけである。
なぜ、サッカークラブで働きたいのか?
自分のことを棚に上げて話すと、みんなサッカークラブで働きたいのだろうか。僕は大阪の生まれで、東京に漠然とした憧れがあったのと、父親がスーツを着ていくような業界ではなかったので、丸の内あたりでジャケットを羽織ってコーヒー片手にラップトップを叩くことを夢見ていた(東京でラップトップを叩いているがスーツは着てないので、半分は叶って半分は叶っていないということになる)。だから、サッカークラブで働くなんて考えたこともなかった。
まず給料が安いイメージがある。何と比べるかによるが、一般論としてはそうだと思う。福利厚生も充実しているとは言い難い。この辺は売上も利益も出にくい業態だから仕方がないだろう。あと、現場仕事は大変だ。試合運営なんかをしていると、いくつになってもテントを運んだりしないといけない。もちろん外注の業者なんかに手伝ってもらうこともできるが、そういう外部の協力者が増えるほど、社員もそこにいなければいけない。しかもこれを土日の往々にして真っ昼間にやらないといけないのだ。
他方、Jリーグクラブの社員の求人を載せると、その求人サイトの登録者数が増えるらしい。だからその求人が入ったタイミングで、サイトはSNS広告を打ったりする。僕のXのアルゴリズムは、僕のことをどうやらサッカー界に興味を持っているらしいということまでは理解してくれているらしく、わざわざその求人をタイムラインに回してくれる。僕はクリックしないわけだが、その投稿を見るたびに「意外と人気なんだなあ」と思う。
青春時代をサッカーに費やした人は多い。それが成功体験であっても失敗体験であっても、大人になった今でも、W杯に限らず、例えばプレミアリーグとか、実は水戸出身だったやつが「水戸のハイライトだけは毎週見てます」みたいに熱心に追いかけていたりする人がいる。これはずいぶんなエンゲージメントだ。そして最初は自分がそこで働くことはイメージできていなくても、そうしてサッカーに触れていると何かしらのタイミングでサッカークラブやサッカークラブで働いている人と接近する瞬間がある。その時に、たとえば仕事や家族や他の何かの都合において、たまたま節目らしきものがあったりして、意外な思い切りで転職してくるのである。僕の知り合いにもたくさんこうした話はある。時に条件面、言ってしまえば給料を下げてもそうした決断ができるのは、これは「好きなものが仕事にできる」というようなインセンティブが大きいのだと思う。
今こそビジネスパーソンが求められている理由
特に最近、例えばここで挙げたような経緯を辿って優秀なビジネスパーソンがサッカー業界に流れ込んでくるようになった。もちろんどの組織を選ぶかによってピンキリではあるが、少し引いて見るとこの業界で働くにはいい時期になったと思う。……
Profile
井筒 陸也
1994年2月10日生まれ。大阪府出身。関西学院大学で主将として2度の日本一を経験。卒業後は J2徳島ヴォルティスに加入。2018シーズンは選手会長を務め、キャリアハイのリーグ戦33試合に出場するが、25歳でJリーグを去る。現在は、新宿から世界一を目指すクリアソン新宿でプレーしつつ、同クラブのブランド戦略に携わる。現役Jリーガーが領域を越えるためのコミュニティ『ZISO』の発起人。