素直に受け入れたコンバート。サガン鳥栖・富樫敬真が示す新たな「川井サガンのウイング像」
プロビンチャの息吹~サガンリポート~ 第3回
ストライカーのイメージが強い富樫敬真が、移籍2年目となるサガン鳥栖で新境地を開拓しつつある。任されたのは川井健太監督が重要視するウイングの右側。もともと持ち合わせていた素直さと飽くなき成長欲で、“左サイドで作り、右サイドで仕留める”ワイドストライカーとしての役割と真摯に向き合っている。今回は指揮官が彼をこのポジションで起用した理由と、本人がどういう想いでピッチに立っているのかを、杉山文宣が深掘りする。
川井監督が強くこだわる“ウイング”というポジション
2024年、川井サガンのウイング像に新しい風を吹かせている選手がいる。それが富樫敬真だ。川井サガンにおいてウイングは指揮官が最も重要視するポジションの一つである。飯野七聖、岩崎悠人、長沼洋一、樺山諒乃介、横山歩夢、中原輝と就任してからの3年間でも多士済々の顔ぶれが並ぶ。
予算規模の大きくないクラブにあってこのポジションに関しては違約金を支払って獲得したケースも少なくなく、そういった部分にも川井健太監督の強いこだわりがにじむ。このポジションに求められるのは推進力であり、基本的にはボールを個人で運べるタイプ。飯野や岩崎のようなスピードが持ち味のタイプ以外はドリブラーが顔を並べる。
そんな系譜がありながら今季、富樫が右のウイングを務める機会が増えている。選手としてのキャラクターを考えれば、かなり異質だ。そもそも、ウイングを主戦場としている選手ではない。FWという得点を最も期待されるポジションで長くプレーしてきた富樫は、鳥栖のウイング像に合致した存在とは考えづらかった。
富樫自身も昨季、鳥栖に加入したがFWとしての自分に一定の手応えを感じていた。それは自分の中で薄れていた感覚を鳥栖というチームが課題として突きつけてくれたからだ。鳥栖は組織としてボールを前進させる仕組みを有している。だからこそ、FWは作りに参加する作業が“免除”され、ペナルティエリア内で仕上げの作業に集中することが求められる。
基本的には個人の質で完結し、チームの予算規模にある程度比例する“得点”を持たざる者である鳥栖が、それを解決するための手法だ。ほかの作業を削ぎ落すことでフィニッシュに集中させ、決める質を可能な限り向上させる。現に富樫も加入直後、「いままでの自分のやってきたプレーよりも最後のところでパワーを使えるようなやり方にはなっている」と第一印象を語っていた。
直面した「見ようとしていなかったものに向き合わざるを得ない環境」
第5節・ヴィッセル神戸戦で左太ももハムストリングを痛め、3ヶ月という長期離脱を強いられたこともあり、加入1年目はシーズンで980分の出場に留まった。それでも、5得点を記録。長期の離脱期間が無ければ、十分に2ケタ得点を達成できたであろうと感じさせるだけの決定力を見せた。その要因について富樫はこう振り返る。
「自分はいままで苦手なプレーや不得手な部分を、ハードワークすることやゴールという結果で見ないようにしていた部分がありました。補ってきたという言い方もできるかもしれないですけど、このチームだと根底にサッカーをうまくなろうというものがある。それはこれまで自分が逃げてきた部分でしたけど、このチームはそこで逃がしてくれない。……
Profile
杉山 文宣
福岡県生まれ。大学卒業後、フリーランスとしての活動を開始。2008年からサッカー専門新聞『EL GOLAZO』でジェフ千葉、ジュビロ磐田、栃木SC、横浜FC、アビスパ福岡の担当を歴任し、現在はサガン鳥栖とV・ファーレン長崎を担当。Jリーグを中心に取材活動を行っている。