負の連鎖を断ち切るために…サンフレッチェが取り組みたい、いくつかのこと
サンフレッチェ情熱記 第12回
1995年からサンフレッチェ広島の取材を開始し、以来欠かさず練習場とスタジアムに足を運び、クラブへ愛と情熱を注ぎ続けた中野和也が、チームと監督、選手、フロントの知られざる物語を解き明かす。第12回は、順調だったスキッベのチームが4月13日の福岡戦以来、リーグ戦6試合勝利なしという危機に陥っている原因を究明してみたい。
データ上はトップクラスだが、9位という現実
サンフレッチェ広島とは、不思議なチームである。
13試合消化現在の平均ゴール期待値が2.03で、平均被ゴール期待値は0.9。いずれもリーグトップの数字である。この2つのデータで2位につけているのが神戸(ゴール期待値は1.81、被ゴール期待値が0.9)で彼らの順位は首位。しかし広島は9位に沈んでいる。
1試合平均シュート数(19.3本)、平均枠内シュート数(5.6本)、平均被シュート数(8.7本)、平均枠内被シュート数(2.6本)、平均チャンスクリエイト数(15.6回)、平均こぼれ球奪取数(40.5回)、平均タックル成功率(71.5%)は首位。平均スルーパス数(15.6本)、平均クロス数(21.5本)、平均1対1勝利数(18.6回)はリーグ2位。多くのデータが、広島の強さを証明している。だが、順位は9位だ。そして直近2試合はいずれも3失点で敗戦している。
結局、サッカーは「決めるか」「決めないか」の勝負だ。判定であれば、広島の勝率はぐっと高くなるが、サッカーには判定勝利も敗北もない。シンプルにゴール数の差で勝敗が決まる。その単純さが、このスポーツを難しくさせる。
今までとの違いは「自滅めいた失点」
4月13日の福岡戦以来、広島はリーグ戦で6試合連続未勝利が続いている。4試合連続の引き分けからの連敗。連続3失点は、ミヒャエル・スキッベ監督の体制になって初めての事態で、2021年のFC東京・横浜FMに3-3、1-3という結果になって以来だ。
昨年も6試合勝利なしという状況に陥ったことはある。6月11日〜8月5日までの期間がそれで、しかもこの時はルヴァンカップと天皇杯での敗戦もあり、実質は8試合連続だった。
その時と比較しての内容はどうか。
2023年は2得点7失点で2分4敗。2024年は8得点11失点で4分2敗。明確な違いは、昨年は点が取れず、今年は失点が多いということだ。特に最近4試合で9失点、平均2.25失点はさすがに多過ぎる。クリーンシートは4月7日の湘南戦以来、ない。それまでの7試合で4試合の完封を記録しているにもかかわらずだ。
気になるのは、日本代表GKの大迫敬介が失点に絡んでいることである。
川崎F戦(4月28日)の試合ではCKに対して飛び出したもののボールに触れず、小林悠に押し込まれた。さらに裏に出たボールに対して判断を迷い、結果としてクリアミス。家長昭博にキープされてマルシーニョに決められた。5月6日の名古屋戦では試合開始早々、佐々木翔のバックパスへの判断に迷い、パトリックにボールを奪われて失点。大迫本人も認めている「明確なミス」によって、3点を失っている。それまで、素晴らしいファインセーブでチームを救ってきただけに、このミスの連鎖は驚きだった。
名古屋戦後、大迫敬介はこう語った。
「僕が試合の入りから、ゲームを壊してしまった。すごく責任を感じています。引きずらないようにやっていましたけど、なかなかそういったのも難しいゲームになってしまった。しっかりと自分を見つめ直して、チームの力になるように頑張りたい」
塩谷司も名古屋戦では2失点目に繋がるパスミスがあり、鹿島戦でも佐野海舟の突破を止められず、決定的な3失点目を喫した。「失点は自分の責任」と語り、名古屋戦後はミックスゾーンでの報道陣からの声かけにも会釈だけして、無言で過ぎ去った。
荒木隼人は鹿島戦で植田直通との駆け引きに完敗して失点。47分には警告を受け、「このままだとレッドカードも出る」とミヒャエル・スキッベ監督が判断して55分に交代。佐々木翔も川崎F戦のパックパスとオウンゴールを悔やみ、メンタルの回復に相当の時間がかかったという。
ミスが多いのは、大迫をはじめとする守備陣だけではない。新潟戦の後半アディショナルタイムに失点して勝ち点2を落としたケースも、満田誠の裏へのパスをカットされ、そこからの速攻からだった。鹿島戦の失点にしても、東俊希の中盤でのボールロストからCKを与えてしまい、越道草太は安易といっていいスライディングタックルでPKを取られた。3失点目も、そもそもはマルコス・ジュニオールとピエロス・ソティリウのミスからカウンターを食らっている。
もちろん、失点はほとんどの場合は、ミスが要因であり、どうしようもない状況からゴールを失うことはほとんどない。だが、それにしても「何もないところ」からミスをして失点という、自滅めいたものが多過ぎる。
「ミスに対して圧をかけることは得策ではない」
ミヒャエル・スキッベ監督はミスには寛容だ。例えば大迫敬介に対しても「彼がどれだけ、素晴らしいプレーでチームを救ってきたか」と語り、「ケースケだってミスをする」とかばい、彼と面談して勇気づけもしている。
「ミスをしたことは、選手が一番わかっているところ。それに対してきつく言ったり、圧をかけるということは、得策ではないと思っています。むしろポジティブにサポートする方が大事です」
ミス連発で3失点してしまった鹿島戦後、スキッベ監督はこう語っている。
「ああいうミスに対して、どういう言葉で(会見で)コメントすればいいんだ」なんて言い方で監督が選手を批判するケースも少なくない。
だが、スキッベ監督はほぼ、それをしない。ミスはミスとして認めながら、例えば大迫に対しては「ケイスケがこれまで何度、チームを救ってくれたか。ケイスケだってミスはある」とかばう。指揮官が公の場で選手を批判し、フォローもしなかったのは2022年7月30日、ジュニオール・サントスがセルフィッシュなプレーでボールを奪われ、決勝点を喫して敗戦したFC東京戦だけだ。
この寛容さが、多くのデータでリーグトップを形成し、ルヴァンカップ制覇や2年連続3位を成し遂げるチームをつくってきたことを忘れてはならない。……
Profile
中野 和也
1962年生まれ。長崎県出身。広島大学経済学部卒業後、株式会社リクルート・株式会社中四国リクルート企画で各種情報誌の制作・編集に関わる。1994年よりフリー、1995年からサンフレッチェ広島の取材を開始。以降、各種媒体でサンフレッチェ広島に関するレポート・コラムなどを執筆した。2000年、サンフレッチェ広島オフィシャルマガジン『紫熊倶楽部』を創刊。以来10余年にわたって同誌の編集長を務め続けている。著書に『サンフレッチェ情熱史』、『戦う、勝つ、生きる』(小社刊)。