“見た目”をよくしても、かっこよく見えない?サッカークラブのブランディングに潜む誤解
強いからかっこいいのか、かっこいいから強いのか
――サッカークラブ・ブランディング探求#04
鎌倉インターナショナルFCの監督とCBO(ブランディング責任者)を兼任し、2024シーズンからはテクニカル・ダイレクターおよびCBO を務める河内一馬は、2018年7月に“あるnote記事”がバズり、一躍サッカー界における「ブランディングの論客」という地位を確立した。競技側の人間でありながらブランディングを語る意味は、サッカー本大賞を受賞したデビュー作『競争闘争理論』の問題意識にも通じている。あれから5年が経ち、サッカークラブの現場でまさにそれを仕事にしている今、あらためて考えてみたい。強いからかっこいいのか、かっこいいから強いのか――その答えを探す旅。
第4回は、「サッカークラブのブランディングをすること」と「サッカークラブをかっこよくすること」の違いについて、考察を深めてみたい。
「サッカークラブのブランディングをすること」は「サッカークラブをかっこよくすること」と、どう違うのだろうか。
同じようで違う、違うようで同じことのように思える。
ブランディングの第一歩は「情報の整理」
この問いについて考えるには、そもそも「ブランディング」とはなにか?から考え始める必要がありそうだ。この連載ではこれまでも「ブランディング」という言葉を使ってきたが、その定義については詳しく触れてこなかった。あくまでも私の主観的な、恣意的な角度からの定義づけにはなるが、これから私が本連載の中で使っていく「ブランディング」という言葉は、以下のような観点から定義されていく。
「サッカークラブのブランディングをしていこう」と宣言した場合、まず初めに何をするべきかと考えると、それは「情報の整理」である。サッカークラブ(ブランド)の長期的価値を上げるために、そのクラブの「言語情報」と「視覚情報」、また「行為情報」の3つを整理しなければならない。言語情報とは多岐に渡るが、最も重要なのはいわゆるビジョンや理念と呼ばれるような類のもので、簡単にいえば「私たちは何を(どんな世界を)大切にするのか」に対する答えである。
クラブの規模によっては外向けに「宣言する」場合もあるだろうし、状況によっては内向けに「意識させる」場合もあるだろう。それらを何層かに整理し、まとめたものを「コンセプト」と呼んでいる。DNAやIDENTITY、またはコアのように呼ぶ者もいるのかもしれない。呼び方はなんでもよいが、いわゆるそのクラブの「幹」のようなものだと思ってもらえれば良いだろう。サッカークラブの場合、クラブ全体の「コンセプト」から、ゲームの「コンセプト」=サッカーチームの「コンセプト」が導かれるのが、私が考える『サッカークラブ・ブランディング』の理想である。これらは全て、言語情報の整理である。
言語情報が整理できると、では、そのような「幹」を持った集団は「どのような見た目(外見)であるべきか?」という答えに“必然性”をもたらすことができる。それが、「視覚情報」の整理である。例えばサッカークラブの場合、「色(クラブカラー)」が非常に大切な役割を持つことは自明だが、もしもサッカークラブが時と場合によってバラバラの色を“秩序なく”使って発信をしているとするならば、視覚から入る情報によって外部の人や内部の人がクラブにアイデンティティを感じることは難しくなってしまうだろう。……
Profile
河内 一馬
1992年生まれ、東京都出身。18歳で選手としてのキャリアを終えたのち指導者の道へ。国内でのコーチ経験を経て、23歳の時にアジアとヨーロッパ約15カ国を回りサッカーを視察。その後25歳でアルゼンチンに渡り、現地の監督養成学校に3年間在学、CONMEBOL PRO(南米サッカー連盟最高位)ライセンスを取得。帰国後は鎌倉インターナショナルFCの監督に就任し、同クラブではブランディング責任者も務めている。その他、執筆やNPO法人 love.fútbol Japanで理事を務めるなど、サッカーを軸に多岐にわたる活動を行っている。著書に『競争闘争理論 サッカーは「競う」べきか「闘う」べきか』。鍼灸師国家資格保持。