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『5つのゴールパターン』も披露した心広き戦術家。リバプール新監督候補、アルネ・スロットとは何者か?

2024.05.11

VIER-DRIE-DRIE~現場で感じるオランダサッカー~#4

エールディビジの3強から中小クラブに下部リーグ、育成年代、さらには“オランイェ”まで。どんな試合でも楽しむ現地ファンの姿に感銘を受け、25年以上にわたって精力的に取材を続ける現場から中田徹氏がオランダサッカーの旬をお届けする。

第4回ではユルゲン・クロップの後任としてリバプールの新監督就任が決定的と報じられているフェイエノールト指揮官、アルネ・スロットの人物像に迫る。

「私が監督なら、アルネ・スロットという選手は使わない」

 フェイエノールトのアルネ・スロット監督はまだ、リバプールとの契約書に署名していない。もし要求される違約金が呑まれなければ、この交渉は破断に終わる。しかし、その可能性は限りなくゼロに近いだろう。1年前、トッテナムからのラブコールを断ってクラブへの忠誠を示したスロットのことを快く送り出す準備が、フェイエノールトにはできているからだ。

 その思いはサポーターも同じだ。5月5日、PECズウォレ戦の終盤、本拠デ・カイプを埋めたファンは3年間の感謝の気持ちを込めてスロットの名を叫んだ。

 1年目はECL準優勝、2年目はエールディビジ優勝、3年目はKNVBカップ優勝――。成功するたびに主力が引き抜かれ、比較的廉価な掘り出し物やアカデミーから昇格してきた若手を集めて再度、競争力の高いチームを完成させる。スロット政権下のフェイエノールトはその繰り返しだった。

 しかもモダンフットボール。アヤックス、PSVと比較すると選手予算が少ないこと、そして労働者階級の支持を受けていることから、従来のフェイエノールトは泥臭くハードワークして勝ち点を積み重ねていくチームだった。しかし、ここ3シーズンは縦に速い攻撃と遅攻を織り交ぜながら攻撃のテンポを作り、ボールを失ったらハイプレッシングで敵陣に相手を封じ込める。彼らのパスワークは芸術の域。練り込まれたチームプレーからゴールネットを揺らす。組織としてチャンスを作れなければ、個の力で差をつける。

 スロットは言う。

 「私が監督なら、アルネ・スロットという選手は試合で使わないだろう」

 1部リーグと2部リーグを行き来しながらズウォレ(1995-2002、09-13)、NAC(02-07)、スパルタ(07-09)でプレーした18シーズン、秀でたテクニックで中盤を支配し公式戦通算100ゴールをマークしたMFは、守備での献身性に欠け、スピードもなかったことからトップレベルへの道が閉ざされた。

現役最後の試合となった12-13シーズンエールディビジ最終節ADOデン・ハーグ戦の試合終盤に投入されたスロット。サポーターから18年におよぶ選手生活を称える拍手が送られた

……

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Profile

中田 徹

メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。

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