ACL決勝で横浜FMを迎え撃つアル・アイン監督、エルナン・クレスポの“リデンプション”
EL GRITO SAGRADO ~聖なる叫び~ #4
マラドーナに憧れ、ブエノスアイレスに住んで35年。現地でしか知り得ない情報を発信し続けてきたChizuru de Garciaが、ここでは極私的な視点で今伝えたい話題を深掘り。アルゼンチン、ウルグアイをはじめ南米サッカーの原始的な魅力、情熱の根源に迫る。
footballista誌から続くWEB月刊連載の第4回(通算163回)は、UAEの強豪アル・アインを2016年以来のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝に導いたクレスポ監督について。元アルゼンチン代表の名ストライカーで指導者歴10年目を迎えた48歳が、キューウェル率いる横浜F・マリノスとアジアの頂点を懸けて5月11日(日産スタジアム)、25日(ハッザーア・ビン・ザーイド・スタジアム)に激突する。
0-7から14カ月…対アル・ヒラルの雪辱に「ありがとう」
「我われは選手たちにありがとう、おめでとうと言わなければならない。確信を抱き、一生懸命練習に打ち込んで戦う彼らは(準決勝)突破に値している。懸命なアル・アインの人々はこの瞬間にふさわしい。自分がその一端であることはとても幸せだ」
サウジアラビアの巨人アル・ヒラルを破り、ACL決勝進出を決めた直後の会見でエルナン・クレスポ監督が語ったその言葉は、本心からあふれ出た率直なものだった。34試合連勝という驚異的な記録を打ち立てていたジョルジュ・ジェズス監督のチームを前に、まったく怖気づくことなく堂々と戦ったアル・アインの選手たちが称賛に値することは、誰もが認める事実だった。
同時に、彼の言う「ありがとう」の言葉には、自分が14カ月前に味わった屈辱を晴らしてくれたという個人的な思いも込められていたに違いない。
2023年2月、カタールのアル・ドゥハイルを率いてACL準決勝に挑んだクレスポは、アル・ヒラルに0-7の大敗を喫して決勝への道を閉ざされた。あの敗北がいかに屈辱的なものであったかは、アジアサッカーに精通するオーストラリア人ジャーナリスト、ポール・ウィリアムズが『The Asian Game』に寄稿したコラムの次のくだりからもよくわかる。
「前半終了時点で5点差をつけられていたが、7〜8点は軽く入っていたかもしれなかった。もしこれがボクシングだったら、レフェリーはそこで試合を終わらせていただろう。7点にとどまったのはアル・ヒラルが後半に自制したおかげ。その気になればカタールの相手(アル・ドゥハイル)を辱める2桁得点を挙げることも楽勝だったが、0-7はそれだけで十分恥ずかしい結果だった」
それほどの恥辱を与えられた因縁の相手と、今大会の準決勝で再び対戦しなければならない運命を憐れむ声もあった中、試合前のクレスポは、18歳でプロデビューしてから30年以上にわたってサッカー界で生き続ける熟練者らしく、落ち着き払った態度を見せた。
……
Profile
Chizuru de Garcia
1989年からブエノスアイレスに在住。1968年10月31日生まれ。清泉女子大学英語短期課程卒。幼少期から洋画・洋楽を愛し、78年ワールドカップでサッカーに目覚める。大学在学中から南米サッカー関連の情報を寄稿し始めて現在に至る。家族はウルグアイ人の夫と2人の娘。