サッカーを笑え #13
冷静と評される選手は数あれど、CL準々決勝の第2レグで目撃したレアル・マドリーGKの“冷たさ”は他に類を見ないものだった。フットボーラーにとってクールであることはプレーにどんな影響を及ぼすのか、あらためて考えてみたい。
普通じゃない…だって、君がヒーローなんだよ!
アンドリー・ルニンはスペインでは「世界一冷たい男」と呼ばれている。マンチェスター・シティ戦でのPK戦後のビデオが大いに話題になったからだ。
決着をつける自身のPKがネットを揺らすと、リュディガーは大きく手を広げて雄叫びを上げながらベンチに駆け寄り、さらにグラウンドを縦断してフェンスを越え、仲間とファンと揉みくちゃになりながら勝利を祝った。一方、ルニンはというとPKを目で追い、とぼとぼと一人でベンチの方へ歩いていった。何の仕草も見せず表情も変えず、勝利というよりそれは「仕事終了」という感じだった。彼だけはCL準々決勝の大一番で勝ち上がった瞬間ではなく、いつもの練習を終えて引き上げる瞬間を生きているようだった。
これは普通のリアクションではない。冷静な選手というのはいくらでもいる。が、喜びを表さない選手というのは思い当たらない。
PK戦の最中、2本もストップしてもガッツポーズをするでなし、うつむき加減のまま。まあ、これは最後まで集中力を切らさないという理由で説明できる。だが、今まさにマンチェスター・シティとの大一番、死闘を制したのである。その瞬間くらい喜びを爆発させてもいいじゃないか。だって、君がヒーローなんだよ!……
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。