モイーズはつらいよ。貢献はクロップ級、だが惜別の歌は聞こえないウェストハム最終月
Good Times Bad Times 〜フットボール春秋〜 #4
プレミアリーグから下部の下部まで、老いも若きも、人間も犬もひっくるめて。フットボールが身近な「母国」イングランドらしい風景を、在住も25年を超えた西ロンドンから山中忍が綴る。
footballista誌から続くWEB月刊連載の第4回(通算238回)は、先週末のロンドン・スタジアムで思いを馳せたクロップ後のリバプール、ではなくモイーズ後のウェストハムについて。
「クロップとモイーズは違う」のか?
4月27日、プレミアリーグ第35節でのウェストハム対リバプール(2-2)をスタンドから眺めながら、今季終了後の監督交代に思いを巡らせた。
ただし、ウェストハムでの交代模様だ。リバプールは、ユルゲン・クロップの“さよならツアー”中。退任を決めた指揮官は、ファンはもちろん、メディアにも今季限りを惜しまれている。一方のウェストハムでは、サポーターや識者の間でも、6月で契約満了となるデイビッド・モイーズ監督を「今季限りとすべき」との声が上がっていた。
モイーズ率いるウェストハムは、優勝を狙う格上にダメージを負わせる引き分けを演じ、自軍は欧州出場権争いにおける望みを繋いだ。それでもファンは、前半の先制点と終盤の同点ゴール直後を除けば、シーズンも大詰めのホームゲームとは思えないほど静かだった。彼らの中には、2019年12月の就任当初からモイーズに納得できずにいる者も少なくないのだから、無理はないのかもしれない。
昨季末の時点では、1980年以来の主要タイトル獲得となるヨーロッパカンファレンスリーグ(ECL)優勝で、ついにモイーズが受け入れられたかに思われた。だが実際には、結果が出なければ、すぐに体制変更の必要性がささやかれる状況が続いている。昨年クリスマス前後にマンチェスター・ユナイテッドとアーセナルを相手にリーグ戦2連勝を記録した後、勝ち星から遠ざかった1月がその一例だ。
ロンドン・スタジアムからの帰り道、市内を東から西へと横断する電車で一緒になった中年カップルも、モイーズには厳しかった。筆者が座った席の隣で、「モイーズは絶対にいなくなる」うんぬんとしゃべっていたのが、ウェストハム・カラーの1つである赤紫色のベンチコートをペアで着ていた2人。試合終了後、ポイントを奪ったウェストハムの監督よりも、ポイントを落としたリバプールの監督の方が、サポーターに称えられていた「温度差」を尋ねると、「クロップとモイーズは違う」との返答だった。
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Profile
山中 忍
1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。