REGULAR

第2次カタノサッカーが直面する「シームレス・フットボール」構築への大きな壁

2024.05.02

トリニータ流離譚 第12回

片野坂知宏監督の下でJ3からJ2、そしてJ1へと昇格し、そこで課題を突きつけられ、下平隆宏監督とともにJ2で奮闘、そして再び片野坂監督が帰還する――漂泊しながら試練を克服して成長していく大分トリニータのリアルな姿を、ひぐらしひなつが綴る。第12 回は攻守に途切れない「シームレス・フットボール」の構築に取り組む第2次カタノサッカーが直面する「大きな壁」について考えてみたい。

 4月は大分トリニータにとって苦しい1カ月となった。5試合を戦って2勝1分2敗。3月も2勝2分2敗だったので、戦績自体はさほど変わらないのだが、内容的に消化不良なゲームが続いたため、チームもその周辺もスッキリしない日々を過ごした印象だ。

強度か?質か?いわき戦で露呈した課題

 第8節のザスパ群馬戦は、スコアこそ2-0で勝利したものの、後半アディショナルタイムに渡邉新太が2点目を奪うまではどちらに転ぶかわからない接戦だった。前半は攻撃時に独特の立ち位置を取るザスパに対し、巧みに対抗して主導権を握ったが、後半は守備にアグレッシブさを加えたザスパに流れを持っていかれ、相手の精度不足にも助けられながら最後は守備固めのカードを切る中で、カウンターでダメ押し点。薄氷の勝利という感も残ったが、これで今季5戦目の無失点試合となった。

 第9節のブラウブリッツ秋田戦は、成長途上のチームを粘り強く支えてきた守備が一転、今季初の3失点を喫した。とはいえ、決して組織的に崩壊したわけではない。4分にセカンドボールへの反応で後手を踏み、13分にはシュートブロックがハンド判定を受けPK献上と、立ち上がりから立て続けの2失点は多少、事故的な要素も強いものだった。だがその後、ひたすら相手陣に長いボールを送ってゴールを目指すブラウブリッツの勢いあふれるスタイルに鼻白んだように攻めあぐね、退場者を出して10人になったブラウブリッツが戦法の明快さを増す中で、1-3での敗戦を喫した。

 第10節のジェフユナイテッド千葉戦も、早々の5分に失点。ハイプレスをかけてセカンドボールを拾う狙いで入ったものの、プレスに行った背後を突かれクリアボールを押し込まれる形だった。相手にドリブルで運ばれてラインが下がり、シュートにまで持っていかれるシーンが続いた前半。後半はスタートから投入した長沢駿が1.5列目を漂いながらボールを収めることで流れを引き寄せるとともに、サイドの組み立てにも参加して状況を改善したが、一進一退の攻防の中、またも相手の精度不足に助けられる形で1-1で終えた。

 深刻さが際立ったのは第11節のいわきFC戦だった。タイプやフォーメーションは異なりながら前への矢印を強く出してくる相手への苦戦が続いた中、なんとしてもその課題を克服したい一戦だったのだが、結果は0-2での完敗。もとよりアンダーアーマー社のサポートの下、フィジカル強化に注力してきたいわきの選手たちはアスリート化の進む現代のトレンドに存分に応え得る個々の強度を有しており、そこに昨夏から指揮を執る田村雄三監督の落とし込んだスタイルが上乗せされて、要所で迷いなくパワーを出せるチームへと成長している。対してこちらは今季から新たなスタイル構築に着手し、特に攻撃面はいまだ手探り状態。現状での地力には大きな差があり、それが内容と結果に反映した形で露呈することになった。

いわき戦で相手に寄せられながらもパスを出す弓場将輝(Photo: OITA F.C.)

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Profile

ひぐらしひなつ

大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg

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