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ベリンガム・システムの歴史的意味と拡張性。レアル・マドリーは「未来」なのか(後編)

2024.05.01

新・戦術リストランテ VOL.13

footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!

第13回は、前回に引き続きレアル・マドリーに感じたサッカーの「未来」について。ディ・ステファノ以来続く独特なクラブカラーの先にある可能性について思いを巡らせてみたい。

 UEFAチャンピオンズリーグ(以下CL)準々決勝、レアル・マドリーvsマンチェスター・シティは定番化している試合序盤のハイプレスvsビルドアップの構図がない点で近未来的だったのではないか、というのが前回のテーマでした。

 ただ、シティのホーム(第2レグ)ではハイプレスがありました。

 シティが押し込む展開。敵陣深くボールを失って、わざわざリトリートするはずもありません。この点は第1レグの後半もほぼ同じです。ただ、マドリーの方にビルドアップがなかった。ビルドアップできない、あるいはその意思もない。カウンターを狙い続けています。ゴールキックもほとんどロングキック。シティのハイプレスはありましたが、マドリーのビルドアップがないので、ハイプレスvsビルドアップにはなっていませんでした。

 マドリーには高い位置で奪うつもりはあったようですが、至極ゆったりとした守り方で、それもシティの「偽CB」アカンジを活用したビルドアップに難なく外されていました。

スタートポジションは最終ラインだが、流れに応じて相手のポケットへ侵入するなど、プレーエリアを広げているアカンジ

 マドリーは守り倒して決勝に進んだと言っていいかもしれません。決着はPK戦でしたし、内容的にはシティが勝っていてもおかしくない、いや勝っているべきゲームでした。

 ただ、これはレアル・マドリーという巨大クラブの伝統でもあります。

 シティも伝統あるクラブですが、現在のプレースタイルはジョセップ・グアルディオラ監督がもたらしたものです。そしてペップのサッカーはかつて率いたバルセロナを踏襲しています。

 レアル・マドリーとバルセロナは永遠のライバルですが、プレースタイルに関してはむしろ他のどのクラブよりも似ています。バルサのDNAを受け継いだとも言えるシティもそうです。しかし、マドリーとバルサ(シティ)には決定的な違いもあるのです。

 最も短く説明すれば、アルフレッド・ディ・ステファノとヨハン・クライフの違いになると思います。

「20%負け」の許容と「100%勝つ」の違い

 クラブのキャラクターは長い年月を経て形成され、あるいは変遷を重ねていきます。とても多くの人々がそれに関与しているわけですが、ただ1人が決定的な影響力を及ぼすものでもあります。

 レアル・マドリーの場合、ディ・ステファノがその1人でした。

……

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Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

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