EURO初出場に建国以来の大歓喜!ジョージア代表が「歴・史・的・快・挙」を成し得るまで
フットボール・ヤルマルカ 〜愛すべき辺境者たちの宴〜 #3
ヨーロッパから見てもアジアから見ても「辺境」である旧ソ連の国々。ロシア・東欧の事情に精通する篠崎直也が、氷河から砂漠までかの地のサッカーを縦横無尽に追いかけ、知られざる各国の政治や文化的な背景とともに紹介する。
footballista誌から続くWEB月刊連載の第3回(通算83回)は、1991年にソ連から独立を果たして以来、混迷を極めた時代を経て、ついにA代表が初の国際舞台にたどり着いた、ジョージアサッカー界の知られざる軌跡。
2020年の辛酸、クバラツヘリア世代の台頭
2024年3月26日はジョージアにとって歴史的な1日となった。
EURO2024の予選でジョージアはグループAで4位に終わったものの、前年にUEFAネーションズリーグでリーグC内の最上位に浮上していたためプレーオフ出場権を獲得。プレーオフではパスC準決勝でルクセンブルクを2-0で下し、3月26日のギリシャとの決勝までたどり着いた。勝てば念願のEURO出場権獲得、舞台は圧倒的なサポーターの声援を受けることができる首都トビリシの本拠地ディナモ・アレナ。しかし、歓喜への期待が膨らむ一方で、ジョージア国民の脳裏には3年半前の苦い記憶が刻まれていた。
これまで大きな国際舞台には縁がなかったジョージアだが、EUROの出場国数が2016年大会から24に増加し、欧州の小国にも可能性が広がる。前回2020年大会(2021年開催)の予選でもジョージアはプレーオフ決勝に進み、やはりホームのディナモ・アレナに北マケドニアを迎えたが、コロナ禍のため無観客試合となったスタジアムでは地の利を生かせず0-1の敗戦。出場権をあと一歩で逃していた。
ギリシャとの決戦を前にしてまったく楽観的な予想はなく、現地メディアはギリシャとの戦績が2分7敗であることや、複数のブックメーカーがギリシャ有利を予想していることなどを不安材料として挙げていた。ジョージア出身の元ロシア代表オマリ・テトラゼもジョージアの実力を認めつつ、「相手は手強い。勝つのは少し難しいかもしれないが、ジョージアは勝利に対する情熱がある。いずれにしても簡単な試合にはならない」と展望した。
だが、ジョージアも前回の予選時と同じチームではない。当時19歳で代表に選ばれたばかりだったMFクビチャ・クバラツヘリアはコロナ感染によりプレーオフ出場が叶わなかったが、その後2022-23シーズンにナポリでブレイクを果たすと、代表の顔となるエースに成長。バレンシアで守護神の座を勝ち取ったGKゲオルギ・ママルダシビリや、昨季フランス2部でリーグ得点王とMVPに輝きメスの1部昇格の立役者となったジョルジュ・ミカウタゼ、さらに中盤のゲオルギ・コチョラシビリ(レバンテ)、ズリコ・ダビタシビリ(ボルドー)、ゲオルギ・チャクベタゼ(ワトフォード)、DFのサバ・サゾノフ(トリノ)、ゲオルギ・ゴチョレイシビリ(シャフタール)といった欧州強豪国やトップクラブでプレーする選手たちが名を連ねている。彼らはいずれも22~24歳であり、この3年半の間に台頭した成長株だ。そして、バイエルンでアンチェロッティやハインケスの下でコーチを務めた元フランス代表DFのウィリー・サニョル監督が2021年から若きタレントたちとともにチームを強化してきた。
今度こそ自分たちの声で代表を後押ししようと、収容人数5万5000人のスタジアムでの決戦のチケットを求めて50万人以上の人々がアクセスし、5時間で完売。最も安い5ドルほどのチケットは闇市場で100ドル以上の値が付いた。
ギリシャ戦当日、至るところで赤と白のジョージア国旗を背中から身にまとった人々の姿が目立つ。ウルトラスはスタジアムまでの道のりを発煙筒を焚きながら行進した。クバラツヘリアがやはり人気でたびたび「クビチャ、クビチャ!」のコールが鳴り響く。公式発表ではこの日の観客数は4万4000人となっていたが、通路の階段も人で埋まり、空席はほとんど見当たらなかった。……
Profile
篠崎 直也
1976年、新潟県生まれ。大阪大学大学院でロシア芸術論を専攻し、現在は大阪大学、同志社大学で教鞭を執る。4年過ごした第2の故郷サンクトペテルブルクでゼニトの優勝を目にし辺境のサッカーの虜に。以後ロシア、ウクライナを中心に執筆・翻訳を手がけている。