構想外から「ゆりかごパフォーマンス」の主役へ。SC相模原に“田中陸尽くし”の1日が訪れるまでの物語
相模原の流儀#3
2023シーズンにクラブ創設者の望月重良氏から株式会社ディー・エヌ・エーが運営を引き継ぎ、元日本代表MFで人気解説者の戸田和幸を指揮官に迎えたSC相模原。ピッチ内外で体制を一新しながらJ2復帰を目指す中、“緑の軍団”が貫く流儀に2021年から番記者を務める舞野隼大氏が迫っていく。
第3回では構想外の昨季から一転して先発に定着した今季、J3第10節の福島ユナイテッド戦で主役となった“MF”田中陸の物語を紹介する。
もしも脚本家がいたとしても、それはさすがにやり過ぎではないかと思ってしまうくらいの出来事だった。
4月13日に相模原ギオンスタジアムで行われたJ3第10節、福島ユナイテッドFCとの一戦で、決勝点を決めてみせた田中陸。SC相模原で加入3年目を迎える167cmのCBがヘディングで待望の移籍後初ゴールを決め、試合前日に生まれた第一子へ“勝利”のプレゼントを捧げた。
ちなみにこの試合では偶然が重なり、来場者に配布されるマッチデープログラムの表紙とインタビューにも、田中がピックアップされ、ボランティアスタッフのパスの写真にも田中が選ばれていた。“田中陸尽くし”の1日で脚光を浴びたが、振り返れば相模原での日々は苦しみ、悩んだ時間の方が長かった。
「難しく考え過ぎて…」ようやく晴れたコンバートへの迷い
今年の5月で25歳になる田中は今シーズン、第4節のFC琉球戦から7試合連続で先発の座をつかみ続け、定位置を築いてみせている。時を遡れば、昨シーズンのリーグ戦ではわずか11試合の出場にとどまり、プレータイムは595分とかなり短かった。ポリバレントという自分自身の特徴を生かし、SBやボランチで勝負をしていたがファーストチョイスにまでなれず苦しんだ過去がある。
とにかくポジションが定まらなかった。MFとして登録されながらもFWや、3バックになってからはウイングバックで起用されることも時にはあった。出場機会が少なくても、役割が1つであればその道を極めた先に道は拓けてくるため、やることはわかりやすい。だが田中は、あらゆる場所でプレーできるがゆえに、自分はどこをメインに勝負すべきなのかと頭を抱えた。
その中で、戸田和幸監督は田中を3CBの左にコンバートした。
とはいえ「自分はここのポジションじゃない……」と、この判断に対して田中自身は素直に受け入れることができなかった。
「田中陸という選手がどういう選手なのか。どういう選手として生きていきたいのか」
昨シーズンの“迷走”していた時期、戸田監督と自分はこの先どこに進んでいくべきか話し合った。……
Profile
舞野 隼大
1995年12月15日生まれ。愛知県名古屋市出身。大学卒業後に地元の名古屋でフリーライターとして活動。名古屋グランパスや名古屋オーシャンズを中心に取材活動をする。2021年からは神奈川県へ移り住み、サッカー専門誌『エル・ゴラッソ』で湘南ベルマーレやSC相模原を担当している。(株)ウニベルサーレ所属。