「for social」ではなく「for you」。地域と共存する社会貢献活動が、サッカークラブの存在意義である理由
“新興サッカークラブ”の競争戦略
J30年目に新しいクラブをつくるリアル#3
徳島ヴォルティスでプレーした元Jリーガーで、サッカー選手のステレオタイプを疑うユニークな記事発信で話題になった井筒陸也は現在、本人が「ベンチャーサッカークラブ」と語るクリアソン新宿で広報とブランディングを担当している。『敗北のスポーツ学』でもテーマにした「勝つこと」以外にも価値を見出す異質なメガネを持つ彼の目から見た“新興サッカークラブ”のリアルな舞台裏、そこから見える新しい時代を生き抜く競争戦略とは?
第3回は、サッカークラブが社会貢献活動を行う意味と、それを経済的な価値につなげていくために必要なものを一緒に考えてみたい。
「俺だったら」を実行するためにつくったクラブ
この連載は「”新興のサッカークラブ”の競争戦略」ということを銘打って書いているわけだが、サッカー界に限らず、ソーシャルグッド(という言葉を使っているかはさておき)は、企業や団体の一つの事業上の重要なテーマになっている。僕たちも、そうした活動にかなりのリソースを投下している。
なぜ、サッカークラブの勝ち負けとあまり関係なさそうな活動をしているかというと、会社では「スポーツを通じて」という表現を使っているけど、まず単純に、スポーツやサッカーを通じて世の中を豊かにしたいというのが組織の理念だからだ。
#2にも書いた通り、創業メンバーには「俺だったらサッカークラブをこんなふうに使うのに」というアイディアがあった。だから既存のクラブに入ったり買ったりするわけではなく、わざわざ新しく作った。これはできる限り純度高くそういう「俺だったら」を実行するためだ。
僕自身も、ここには強い関心を払ってきた。
僕は人生でずっとサッカーだけをやってきたことに一定の逡巡や後悔というものがあって、それでもずっとサッカーだけをやってきてしまったので、とにかくこの自分の人生を肯定するためにはどうすればいいのかということばかり考えてきた。
大学で日本一になり、Jリーガーになり、J2だけど試合に出て金も稼げるようになって、ふとこのままうまく進んでステップアップし、額面が2000万、3000万となった時に「自分は自分の人生を肯定できるんだろうか」と思ってしまった。そうして「まあまだ25歳だし東京に行って、ビジネスなるものをしながら自分の可能性を試してみよう」となった。その時、縁があったのが今のサッカークラブで、ここであればキャリアをリセットしなくても自分がやってきたサッカーというものを利用しながら何か意味ありげなことができる(人間になれる)と思ったのである。
後付け的な部分もあるが、それでいい
一方で僕も創業メンバーも、サッカーをずっとやってきた。だから矛盾するようだが、サッカーを使ってソーシャルグッドをするというのには後づけ的な部分もある。社会の課題を解決するために、サッカーが最も有効な手段だったからという理由だけでこのサッカークラブが始まったのかというとそうではない。そういうコンセプトはもちろんあった。一方でサッカー人である我々が手段としてサッカーを選択したことは、そうしたコンセプトとは別の個人的な事情だった。……
Profile
井筒 陸也
1994年2月10日生まれ。大阪府出身。関西学院大学で主将として2度の日本一を経験。卒業後は J2徳島ヴォルティスに加入。2018シーズンは選手会長を務め、キャリアハイのリーグ戦33試合に出場するが、25歳でJリーグを去る。現在は、新宿から世界一を目指すクリアソン新宿でプレーしつつ、同クラブのブランド戦略に携わる。現役Jリーガーが領域を越えるためのコミュニティ『ZISO』の発起人。