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「ケガの予防=選手のF1マシン化」への懸念。膨大なデータを活用するために必要なのは何か?

2024.04.23

喫茶店バル・フットボリスタ ~店主とゲストの本音トーク~

毎月ワンテーマを掘り下げるフットボリスタWEB。実は編集者の知りたいことを作りながら学んでいるという面もあるんです。そこで得たことをゲストと一緒に語り合うのが、喫茶店バル・フットボリスタ。お茶でも飲みながらざっくばらんに、時にシリアスに本音トーク。

今回のテーマは「ケガ」。サッカースケジュールの過密化、代表選手の長距離移動や時差、プレー強度の向上……今トップレベルのサッカー選手はギリギリの状況で戦っている。過酷な生存競争を生き抜くための方法を考えてみたい。

今回のお題:フットボリスタ2024年3月特集
「過密日程と強度向上による生存競争。ケガとともに生きる」

店主 :浅野賀一(フットボリスタ編集長)
ゲスト:川端暁彦

バル・フットボリスタが書籍化!

今こそ「ケガ」について考えるべき時

川端「マスター、最近のフットボリスタはどうだい?」

浅野「雑な質問だな(笑)。まあ、相変わらず好きにやらせていただいてはいます。今月のメインテーマなんて『ケガ特集』ですからね」

川端「うん、売れなそう!!」

浅野 「いやいや、雑誌の頃もやりましたが、突き詰めていけば睡眠や食事など広がりのあるテーマですから。意外と好評なんですよ」

川端「なるほど、確かに。いま俺がカタールで読んでた『疲労とはなにか』(近藤一博著、ブルーバックス)とかもサッカーと関係ないけど、サッカーに関係するものもかなり包括してるもんな。逆も然りか」

浅野「そうなんですよ。で、今シーズンはめちゃくちゃケガが多いじゃないですか。だから、あらためてやってみようかな、と。プレミアリーグで言えば三笘薫が所属するブライトンは大変な目に遭っていますし、欧州カップ戦に慣れていないチームはこの過密日程+代表選手のマネジメントは厳しいですよね」

現在は腰を負傷し、ベンチ外が続いている三笘

川端「プレミアリーグはやばいですよね。明らかに負傷者が多いし、負傷しそうな試合が多い。リーグレベルが高くて拮抗して激しくなる試合が多いのも要因なんだろうね」

浅野「そもそものプレー強度が上がっているのが影響しているという側面もあります。ウインターブレイクがないといった日程面の問題もありますしね。特集冒頭の記事でも紹介していますが、『プレミアリーグでは23-24シーズンの開始3カ月余りで196件のケガが発生した。過去4シーズンと比較して15%も増加』というデータもあります」

川端「ケガはサッカーというコンタクトプレーのあるスポーツの同伴者みたいなものではあるものの、日本人がプレミアリーグに行くとなると『頑張ってほしいな〜』と思うと同時に、『ケガしないか心配だなあ』っていう気持ちになっちゃうんだよなあ」

浅野「今季の三笘がまさに負傷で苦しんでいますからね」

川端「プレミアリーグは特に激しいしね。俺や賀一さんがプレミアリーグの試合に出たら最初のボディコンタクトで両膝・両足首の靭帯が切れて、首の骨も折れ、肩は脱臼骨折だろうな」

浅野「俺らが出ることはないから(笑)。まあでも、日本人選手の場合は代表戦の移動負担も重いし、本格的に考えないと厳しいとも思っている。プレー強度アップ、過密日程、移動負担の三重苦に直面しているからね」

川端「だからシーズン中の日本代表の親善試合を欧州でやるのはいいことだと思うよ。批判する人もいるけども、チーム強化にだってつながるし」

浅野「代表選手の多くが欧州でプレーするようになった今、その方が明らかにパフォーマンスは上がるし、選手たちの負担も軽くなるからね」

川端「ただ、アジア予選はどうにもならんけど。中東での試合は欧州から行くにはすぐだからまだいいんだけど、日本ホームはマジで遠いからね。平壌アウェイは急になくなったけど、あれに出てから欧州へ移動するのはまたかなり大変だったよ」

浅野「アジア最終予選は別だけど、二次予選とかはJリーグ組で臨むなどの対策は今後必要になってくると思う」

川端「俺が昔から言ってる二段編成構想も現実的にありだと思う。特に中東アウェイ→日本ホームの連戦みたいなケースなら、中東アウェイを欧州組、日本ホームをJリーグ組+で戦うのは実際に一案じゃないかな。『勝つ』っていう意味でもコンディションの良い選手をぶつけられるのはメリットだから。日本代表の『チーム作り』は予選を戦いながらやるしかないものだから、練習機会が減ってしまうこと含めてデメリットはもちろんある。ただ、長い目で見れば国内組を鍛える場があることも代表強化にはつながると思う」

浅野「そうそう。Jリーグの盛り上がりにもつながるしね」

川端「まあ、Jリーグ選手の欧州への引き抜きを促すことになるから、Jリーグの盛り上がりにつながるかはわからん(笑)。ただ、Jリーガーの『値札』を上げることにはつながると思う。A代表歴の有無は移籍金の金額にダイレクトに影響してくるからね。そういう意味でも、Jクラブの不利益にはならないとは思う」

で、何をするべき?

浅野「ということで、今回の特集の意図は、特に欧州サッカーでプレーする選手たちの厳しい状況を知ってもらうこと、そしてその中でケガのリスクを下げるには何をすべきかを探ることなわけです」

川端「で、何をするべきなんでしょうか?」

浅野 (斉藤光毅や水戸舜介が所属する)オランダ1部のスパルタ・ロッテルダムでフィジカル分野の責任者を務めている相良浩平さんとまさにそのテーマで話したんですが、本当に勉強になりました。まず欧州サッカーは強度をますます求めている前提があり、フィジカル部門――ハイパフォーマンス部門という言い方をするそうですが――への投資が進み、人員も増えているという現状があります。パフォーマンスアップと同時に、ケガの予防も大きな目的です。フレッシュな戦力を安定的にそろえられる時点で戦略的には1つの勝利ですからね」

川端「そこの充実は大きなテーマだよね。Jも代表も昔よりフィジカル・コンディション系のスタッフを増やしているけど、それだけやることも増えてるんだろうな」

浅野 「なぜ、人員を増やすかというと取得できるデータがとにかくめちゃくちゃ増えていることが一因です。それを分析するデータサイエンティスト的な仕事が必要みたいですね。今、サッカークラブにはいろんなデータ会社からたくさんの売り込みがあるみたいですし」

川端「『データ多くして船、山に登る』みたいなのも現代のサッカーチームあるあるだけどね」

浅野「まさにそうみたいで、現場の課題はこの多すぎるデータを統計的にまとめて『この状態で試合に出たらケガの確率〇%』みたいなわかりやすい指標を出してくれるAIの開発だそうです」

川端「そんなパワプロじゃないんだから(笑)」

浅野「でも実際にいろんなサッカークラブがそれに挑戦してはいるみたいです」

数字で可視化できるメリットとデメリット

川端「どんなにデータを増やしても、入力しきれないデータってのは絶対出てくるから、やっぱ難しいと思うよ。傾向を探るのはできるだろうけど。ただ、データの蓄積と分析を繰り返す中で、思わぬデータが肉離れと相関あるとか、そういう気づきはあるかもね」

浅野「確かにそういう発見はありそうだね」

川端「あとは戦術的ピリオダイゼーションで負荷をコントロール!とか言ったところで、『今日は疲れてないから飲みに行こう』とナイトライフに繰り出す選手が出たらすべて破綻するのと同じで。同じ出場時間で同じ走行距離やスプリント数なら同じ負荷がかかってるわけじゃなくて、無限に変数があるわけだし」……

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Profile

川端 暁彦

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣『エル・ゴラッソ』を始め各種媒体にライターとして寄稿する他、フリーの編集者としての活動も行っている。著書に『Jの新人』(東邦出版)。

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