「モウリーニョ→デ・ロッシ」と「サッリ→トゥードル」のローマダービー。新世代のメソッドに刷新された新監督の激突
CALCIOおもてうら#11
イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。
今回はモウリーニョからデ・ロッシ、サッリからトゥードルと、奇しくもシーズン途中で監督が交代した両チームによるローマダービー。新しい歩みを始めたローマ勢の激突を分析したい。
4月のイタリアは「ダービー月間」
セリエAの4月は「ダービー月間」。さる4月6日のローマダービーに続いて、今週末13日にはトリノダービー、そして22日月曜日にはミラノダービーが組まれている。このミラノダービー、もしインテルが勝てば、宿敵ミランの目の前でスクデットが決まる可能性大というシンボリックな一戦になりそうだ。
先週末のローマダービーも、首都ローマの覇権が懸かっていることはもちろん、セリエA終盤戦最大の焦点であるCL出場権争いに関わる直接対決という観点からも、両チームにとってきわめて重要な試合だった。
ご存知の通り、結果は1-0でローマの勝利。22年3月以来2年間、4試合にわたって遠ざかっていたダービーでの勝ち星を手に入れただけでなく、来シーズンのCL出場権ボーナス枠(UEFAカントリーランキング上位2カ国に与えられる。現在1位のイタリアは5チーム目の出場枠を手に入れる可能性大)が懸かったセリエA5位の座をがっちりと固める重要な勝ち点3を積み上げた。
一方敗れたラツィオは、2年連続のCL出場に向けた一縷の望みが絶ち切られただけでなく、カンファレンスリーグ出場権にも手が届かない欧州カップ戦圏外の8位まで後退。シーズン最終順位でも18-19以来5年ぶりにローマを下回り、首都ローマの覇権を譲り渡すことが濃厚となっている。
ポジショナル志向vsデュエル志向の新監督対決
日本では、そのラツィオで鎌田大地がトップ下でスタメン出場したことでも注目を集めたこのローマダービー。誰にとっても最大の関心事である結果を別にすれば、ダニエレ・デ・ロッシ(ローマ)、イーゴル・トゥードル(ラツィオ)という、シーズン半ばでその座に就いた両監督の対決も、大きな注目点の1つだった。
今シーズンの開幕時点でチームを率いていたのは、ジョゼ・モウリーニョ(ローマ)、マウリツィオ・サッリ(ラツィオ)という、2010年代の欧州サッカーに小さくない足跡を残した60代のベテラン監督だった。その戦術は、徹底した研究と対策で対戦相手の強みを封じ堅守速攻で勝利をもぎ取る(モウリーニョ)、攻守両局面ともにあらかじめ決められた戦術スキームの遂行を基本に据え「戦術に選手をはめ込む」(サッリ)と、いずれも1つ前の時代に主流だったアプローチに基づくもの。
過去2年間それなりの成果を残してきた両監督だが、ともに就任3年目を迎えた今シーズンはそれぞれのメソッドの効用が限界に達したかのように戦術とマネジメントの両面で困難を抱え、モウリーニョは1月に解任、サッリも3月に自ら辞任という形でその座を去ることになった。
その後任に迎えられたデ・ロッシとトゥードルは、それぞれ前任者とは世代もメソッドも戦術もはっきりと異なる40代の指揮官。デ・ロッシはポジショナルな配置をベースにポゼッションで主導権を握るサッカー、トゥードルはマンツーマンのプレッシングをベースに攻守両局面で1対1のデュエルを重視するダイレクト志向の強いサッカーと、タイプこそ違えセリエAの近年のトレンドに沿ったスタイルを打ち出している。……
Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。