Good Times Bad Times 〜フットボール春秋〜 #3
プレミアリーグから下部の下部まで、老いも若きも、人間も犬もひっくるめて。フットボールが身近な「母国」イングランドらしい風景を、在住も25年を超えた西ロンドンから山中忍が綴る。
footballista誌から続くWEB月刊連載の第3回(通算237回)は、いくら「デザイン」でもやり過ぎ?“異色”の国旗で物議を醸すスリー・ライオンズの新ユニフォームについて。
「Are you cross?」1966年W杯代表へのオマージュだったが…
今夏のEURO2024出場国で、赤、紺、青、紫の十字が国旗に描かれているチームは?――答えは、イングランド代表。去る3月18日に発表された新ユニフォームのデザインとして、白地に赤い十字の「セント・ジョージ・クロス」がマルチカラーで登場した。公式サプライヤーであるナイキ社のコンセプトによれば、「遊び心のある現代化」の対象となったのだった。
過去にも、デザインの良し悪しが話題になったことは何度もある。しかし、デザインの「正否」が問われたケースは、30年近くなる在住歴の中でも記憶にない。本来は、「人々の団結心と情熱」を呼び覚ますデザインであるはずだった。ところが結果的には、世論を分断し、イングランド庶民を激怒させるデザインとなってしまった。
反響の大きさは、『BBCテレビ』のニュース番組で、緊急速報のごとく画面下に流れるテロップ付きで報じられたほど。そのテロップには、英単語の「クロス」が持つ「腹を立てた」という意味にかけて「Are you cross?」とあった。実際、巷では怒りの声が大きい。例えば、大衆紙『デイリー・ミラー』が行ったオンライン意見調査では、1000人台の回答者のうち845人が「新デザイン変更」に同意。ざっとSNS上を眺めてみても、デザインを好きになれないのではなく、「受け入れられない」とする断固反対派が多い。こうした状況につけ込み、問題の国旗を覆い隠すためのワッペンを売り出す業者まで現れた。……
Profile
山中 忍
1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。