「シン・カタノサッカー」を支える新顔3人、安藤智哉&藤原優大の2CBと新守護神・濵田太郎のそれぞれのテーマ
トリニータ流離譚 第11回
片野坂知宏監督の下でJ3からJ2、そしてJ1へと昇格し、そこで課題を突きつけられ、下平隆宏監督とともにJ2で奮闘、そして再び片野坂監督が帰還する――漂泊しながら試練を克服して成長していく大分トリニータのリアルな姿を、ひぐらしひなつが綴る。第11回は新チームの守備を支えるフレッシュな3人、安藤智哉&藤原優大の2CBと新守護神・濵田太郎の今季に懸けるそれぞれのテーマを伝えたい。
3シーズンぶりに指揮を執る片野坂知宏監督の下、「攻守シームレス」をキーワードに新たなスタイル構築へと踏み出している大分トリニータ。徐々に新スタイルの輪郭も見えながら、プレシーズンからサムエルや鮎川峻ら主に攻撃陣の主力候補に負傷者が続出し、現在は特別指定選手にも頼るなど、戦力のやりくりに腐心している。
ここまでリーグ戦7試合を終えて2勝3分2敗。藤枝MYFCと鹿児島ユナイテッドFCに勝利し、ベガルタ仙台、横浜FC、ファジアーノ岡山と引き分け、清水エスパルスと栃木SCに敗れている。現在は13位につけており順位は中位あたりを漂っている状態だが、決してよろしくないチーム状態を考えれば健闘していると言っていい。サムエルの長期離脱にともなって再契約した長沢駿が、自身のコンディションを上げてからは攻撃のキーマンとなっており、チーム最多の4得点でリーグのゴールランキング1位にも名を連ねる。ただ、長沢が自由に動きながら起点を作る攻撃は一戦ごとに練度を高めている手ごたえもありつつ、まだ十分に得点や勝ち点に結びついてはいない。第7節のファジアーノ戦では苦しい時間帯をしのいで繰り出したカウンターから相手を1人退場へと追い込んだが、10人で自陣を固められるとその牙城をなかなか崩せず、焦るあまりに拙攻が目立った。
その一方、5枚のブロックで手堅く守りながらグレイソンやルカオ、ガブリエル・シャビエルといったタレントの力でカウンターやセットプレーでの得点を狙うファジアーノに対し、その形でワンチャンスを決められて敗れる「あるある」な展開に持ち込ませなかったところには、トリニータ守備陣の賢く粘り強い対応があった。
安藤智哉、「優しさ」からの意識改革
今季は4バックシステムを採用するトリニータの最終ラインに並ぶのは、昨季レギュラーだったペレイラとデルランの2人の助っ人DFを差し置いて出場を続ける2人のCB。昨季FC今治から完全移籍加入した安藤智哉と、今季浦和レッズから育成型期限付き移籍加入した藤原優大だ。190cm82kgの安藤と181cm74kgの藤原はともに対人守備に強く、コンビネーションも良好でカバーリングにも隙がない。右SBの野嶽惇也、左SBの香川勇気とともに緩みなくスライドを繰り返す。
かつて一時代を築いたポゼッションスタイルの「カタノサッカー」とは異なり、最前線からのハイプレスで即時奪還し素早く攻める今季のスタイルにおいては特に、後方の守備では少ない人数で広大な範囲をカバーすることが求められる。たとえ失い方が悪かったとしても最終ラインで相手のカウンターをきっちりと摘み取る高信頼性があってこそ、前線や中盤も思い切ってプレッシングに行けるというものだ。ペレイラとデルランも個での守備範囲は広いが、周囲とのコミュニケーションや戦術理解力、そして攻撃精度の面も合わせ総合的に判断して、現在は安藤と藤原がファーストチョイスになっていると思われる。
安藤は昨季加入した当時から、恵まれた体躯に似合わぬ緻密な足下のテクニックに期待が集まった。繰り出すパスが柔らかく、フィードの精度も高い。愛知学院大時代にはU-19代表やU-19全日本大学選抜に選出され、卒業と同時にFC今治に加入すると、プロ2シーズン目には主力としてリーグ戦29試合に先発出場し、その年のJ3ベストイレブンに選出された過去も持つ。CBであるにもかかわらず、PKを含むセットプレーだけでなく普通にFWとしても得点力に期待されるという一面もあった。
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Profile
ひぐらしひなつ
大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg