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J1屈指のパサーへと成長を遂げた気鋭のボランチ。アルビレックス新潟・秋山裕紀が見据えるブレない夢と目標

2024.03.28

大白鳥のロンド 第9回

パス数、パス成功率はともにJ1トップの数字。加えてタックル成功率までリーグ1位となれば、もうその存在は誰もが認めざるを得ない。アルビレックス新潟の中盤を支えるボランチ、秋山裕紀の躍動が際立っている。もともとそのサッカーセンスは誰もが認めるところだったが、決して順風満帆とは行かなかったプロ入り後のキャリアは、今の好調を説明する上でも語り落とせない要素だろう。そんな時間も含めて、おなじみの野本桂子が秋山の過去と今を解き明かす。

「世界のベストパサーランキング」にもランクイン!

 いまや、国内屈指のパサーだ。

 プロ6年目を迎えたボランチの秋山裕紀は、J1開幕から4試合先発フル出場を続けている。4試合でのパス数420本は、2位の岡村大八(北海道コンサドーレ札幌)に109本の差をつけてリーグ1位。パス数上位10人の中で、成功率91.2%もリーグ1位となっている。また、1試合平均敵陣パス数47はリーグ2位。より高い位置でボールに関わりながら攻撃できていることが分かる(出典:J STATS)。

 昨年10月、スイス拠点のサッカー研究機関CIES Football Observatoryが、Wyscoutデータに基づき発表した「世界のベストパサーランキング」で58位に秋山が選ばれている。ランクインした日本人4選手の中では最高位で、90分あたりのパス数74で成功率は91.4%。パスにこだわってきた自分の強みを再確認した。開幕からコンスタントに出場を続けている今季は、90分あたりのパス数を105と増やしながら、成功率はほぼ同じだ。

 「もちろんパスが一番の特徴ですし、そこで勝負をしていかなきゃいけない選手なので、こだわりは人一倍持っているつもりです。でも、そこで数字を出すことがゴールじゃない。チームが目指している“てっぺん”に行くために、勝点3を積み上げる。勝つために逆算して何をするか考える。自分の数値が下がったとしても、チームが勝てばいいと思っています」と秋山。パスはあくまで勝つための手段の1つ。勝利しなければ満足しない。

 先発で意識しているのは、90分で勝つためのゲームコントロールだ。「ピッチに立ったとき、どこが相手のウイークでストロングかを感じ取れることは大事な要素」。例えば開幕戦のサガン鳥栖戦では自身のクリアが失点につながったものの、メンタル的に動揺することなく、敵陣右の有効なスペースを見つけて味方と共有し、攻撃の起点となって、流れを引き寄せた。新潟が2-1と逆転してから勢いを増す相手の反撃の中で、「守備的になるのは好きではないけれど、勝ち切るため、失点しないことにフォーカスしてゲームをコントロールできた」と90分の中で勝点3をものにしている。

2024シーズンのJ1開幕節、鳥栖戦のハイライト動画

副キャプテン就任。チームに対する責任感がにじむ

 今季、主将の堀米悠斗から副将に指名された。「重圧はありますけど、こういう経験をすることで成長できる」と引き受けると、「チームの目標である“優勝”に対して、個人としても貢献できるように頑張りますし、チーム全体をいろんな角度から見て、ゴメスくん(堀米)のサポートをしつつ、自分にできることをやっていきます」とチームメイトの前であいさつをした。

 このときを振り返り、堀米は「裕紀は口がうまくて言葉にする力がすごく高い。リキさん(松橋力蔵監督)が言っていた“てっぺん”っていうぼんやりした言葉を、“優勝”っていう言葉に変えてあいさつしたところは、すごく頼もしい」と目を細めた。……

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Profile

野本 桂子

新潟生まれ新潟育ち。新潟の魅力を発信する仕事を志し、広告代理店の企画営業、地元情報誌の編集長などを経て、2011年からフリーランス編集者・ライターに。同年からアルビレックス新潟の取材を開始。16年から「エル・ゴラッソ」新潟担当記者を務める。新潟を舞台にしたサッカー小説『サムシングオレンジ』(藤田雅史著/新潟日報社刊/サッカー本大賞2022読者賞受賞)編集担当。24年4月からクラブ公式有料サイト「モバイルアルビレックスZ」にて、週イチコラム「アイノモト」連載中。

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