“原典”への理解不足、しかも「完コピ」だと無理。なぜ、Jリーグでは[4-3-3]が機能しないのか【後編】
新・戦術リストランテ VOL.8
footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!
第8回は、前回に引き続き「なぜ、Jリーグでは[4-3-3]が機能しないのか」。後編では、「距離感」「技術」「職人」など[4-3-3]がワークするポイント(=日本サッカーに足りないもの)を解説する。
選手同士の「距離感」がしっくりこない
オランダ方式の[4-3-3]([4-1-2-3])システムが、日本でいまひとつ浸透しなかったのはなぜなのか。前回に引き続きのテーマです。
オランダ式の特徴は「ポジション固定」と「外回りの攻撃」にありました。先に外回りの攻撃について言いますと、日本には俊敏なウイングプレーヤーがかなりいますので、攻撃のポイントになるウイングがいなかったという理由ではありません。ただ、CFの方はあまり人材がいなかったということはあるでしょう。
オランダは長身国ですから、背が高くてウイングからのハイクロスをヘディングシュートする、味方にノックダウンパスを落とすといったプレーが得意なCFに不足はない。代表的なところではマルコ・ファン・バステン、パトリック・クライファート、ルート・ファン・ニステルローイなどが挙げられます。
とはいえ、日本にとってハードルが高かったのはCFよりもポジション固定という縛りの方だったと思います。
オランダ方式が確立したのは[3-4-3]システムの1990年代でした。この時期はプレッシングが一気に普及していて、ポジション固定はプレス回避の意図がありました。プレッシングはゾーンの守備ブロックをボール方向へ圧縮させて強度を高めていく守備戦術。それを回避するために、圧縮するゾーンの外側に人を立てる。いったんプレッシャーの弱い場所にボールを預けて逆サイドの薄い方へ展開し、守備ブロックを左右に動かして隙を作ります。
つまり、圧縮したいプレッシングに対して逆に広げていく。そのためにはフィールドを広く使ってボールを動かす必要があり、バランスよく人が散開していなければなりません。人から人へ、大きくボールを動かしていくことでプレッシングを無力化しようという試みです。
このポジション固定はパスの距離が比較的長い。この距離感の違いが日本サッカーをオランダ化したい場合の障壁になっていました。……
Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。