REGULAR

新興サッカークラブの「ユニフォーム」は、どういうプロセスで作られるのか?

2024.03.27

“新興サッカークラブ”の競争戦略
J30年目に新しいクラブをつくるリアル
#2

徳島ヴォルティスでプレーした元Jリーガーで、サッカー選手のステレオタイプを疑うユニークな記事発信で話題になった井筒陸也は現在、本人が「ベンチャーサッカークラブ」と語るクリアソン新宿で広報とブランディングを担当している。『敗北のスポーツ学』でもテーマにした「勝つこと」以外にも価値を見出す異質なメガネを持つ彼の目から見た“新興サッカークラブ”のリアルな舞台裏、そこから見える新しい時代を生き抜く競争戦略とは?

第2回は、非常に幅広いサッカークラブの制作物の中で「特別な存在感を放つ」ユニフォーム、なかなか表には出てこないその制作プロセスを解説してもらおう。

 #1でも書いた通り、僕はサッカークラブの「ブランディング室」というところにいる。

 「室」と言っても立派なものではなくて、工数は3人月分くらいしかない。だから、基本的にいつもパツパツである。一方で、頭数が多ければいいという領域でもないのでこれがまた難しい。

 スポーツクラブには、やはりスポーツ人材が集まる。新興サッカークラブに飛び込んでくるようなスポーツ人材は志が高くて、そして往々にして社交的である。つまり営業向きである。そうして意図せず営業過多気味の組織ができ上がる。さまざまなパートナーと、さまざまな案件が走る。それに付随するクリエイティブも指数関数的に増加する。そうなると、そのクリエイティブの制作工数がボトルネックになりがちなわけだが、ざっくり言うとそのあたりがすべて井筒マターとなっているので必然的にハードワークが求められる。

 企画を立て、映像ならロケハン、撮影、動画制作。グラフィックであれば、写真をレタッチ、イラストレーターのデータを開いてデザインまがいのことをし、気の利いたコピーをこしらえ、必要ならライティングをする。プロダクトならそこから制作会社に発注、納品されてダンボールを解くところまで。そしてこれらが滞りなく、かつ然るべきクオリティになるようにディレクションというかプロジェクトマネジメントもする。こんなことを5年くらいやっている。サッカークラブの制作物は本当に幅広なので、大概のものは作れるようになった。

Photo: Getty Images

「ユニフォーム」プロジェクトは全社案件

 その中でも、特別な存在感を放っている制作物と言えば「ユニフォーム」である。このプロジェクトはブランディング室の中でも、とりわけ全社を巻き込んでやる類の案件である。

 僕たちは、何でも自分たちでやりたがる傾向にある。新しいクラブを作る以上、先進のクラブを見て「もっとこうすれば良くなるのではないか」という無責任なアイディアを持った人が集まっているのでしばしばそうなる。ユニフォームもそうである。他のクラブがどうしているかわからないが、僕たちのユニフォームにはメーカーのロゴが入っておらず、デザインだけではなくパターン(型)もほぼ自分たちで作っている。

 このユニフォーム制作が何からスタートするかというと、まずはコンセプト作りからだ。これは本当に取り留めもない議論からスタートする。2024シーズンに我々はJリーグに立っている可能性があったので自己紹介をしつつ、一発かましつつ、でも謙虚に、それでいて個性が出せるようなユニフォームにするために「改めて、我々とは?」みたいな会議を延々と重ねる。そして過去、現在から未来に向けて補助線を引く。

 この会議のメンバーは、博報堂に勤めながらクラブの中でクリエイティブディレクター的な立ち回りをしているS、社内のアートディレクター(デザイナー)K、僕、そして昨年までクリアソン新宿の現役選手だった上田康太が名を連ねていた。このプロジェクトにプレーヤーの目線を入れてもらいたかったことと、彼がクリエイティブに関心があったのでこの室に引き込もうと画策していたのである(最終的には強化担当になった)。

……

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Profile

井筒 陸也

1994年2月10日生まれ。大阪府出身。関西学院大学で主将として2度の日本一を経験。卒業後は J2徳島ヴォルティスに加入。2018シーズンは選手会長を務め、キャリアハイのリーグ戦33試合に出場するが、25歳でJリーグを去る。現在は、新宿から世界一を目指すクリアソン新宿でプレーしつつ、同クラブのブランド戦略に携わる。現役Jリーガーが領域を越えるためのコミュニティ『ZISO』の発起人。

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