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広島、長崎、今治、金沢、そして清水…Jリーグの新スタジアムブームの背景には何がある?

2024.03.22

喫茶店バル・フットボリスタ ~店主とゲストの本音トーク~

毎月ワンテーマを掘り下げるフットボリスタWEB。実は編集者の知りたいことを作りながら学んでいるという面もあるんです。そこで得たことをゲストと一緒に語り合うのが、喫茶店バル・フットボリスタ。お茶でも飲みながらざっくばらんに、時にシリアスに本音トーク。

今回のテーマは「サッカースタジアム」。Jリーグで加速する新スタジアムブームの背景、未来の日本サッカー界の中で各地域に建てられる新型スタジアムがどう役立ってほしいかを語り合った。

今回のお題:フットボリスタ2024年2月特集
なぜ、新プロジェクトが続々発表?サッカースタジアムの未来

店主 :浅野賀一(フットボリスタ編集長)
ゲスト:川端暁彦

バル・フットボリスタが書籍化!

急増の背景にある、2つの大きな流れ

川端「マスター、俺はもう疲れたよ……」

浅野「いきなりどうした(笑)」

川端「スタジアムが駅から遠すぎたんだよ。バスに並ぶのも怠いし、バス停に着いてからも遠いんだ。しかも帰りの便は余計に過酷と来たもんだ。サポーターからは『徒歩で1時間くらいなので歩くのがオススメですよ』とか言われたんだけど、俺のような壊れた膝を持つ老人には厳しいんだ」

浅野「……そんなわけで! 2月のフットボリスタWEBは『スタジアム特集』をしてみました。リニューアル後、初のバルですが、今後のWEB版では月ごとにメイン特集を展開していく予定で、最初の2月はサッカーファンにとってある意味で最も切実な問題と言えるスタジアムを掘り下げてみました」

川端「Jリーグ開幕でスタジアム周りの話題が増えることを見越してというわけね。俺みたいな嘆き節もよく出る時期だし、と」

浅野「現在、Jリーグの各クラブで新スタジアム建設のプロジェクトがどんどん立ち上がっているから、それを取り上げるタイミングが来たなと感じたということでもあります。ちょうど2月はサンフレッチェ広島の『エディオンピースウイング広島』のこけら落としでもあったので、そこを起点に特集を始めました」

川端「あのスタジアムはいいねえ。早く行ってみたいよ。まず場所がいいよね。やはりスタジアムはポジショニングが命。日本のスタジアムって、余っている土地の活用とか栄えてない土地の振興とかを企図した行政によって場所を決められちゃいがちだから、ああいう主要駅の近くってなかなか陣取らせてもらえないんだよね」

浅野「片野さんも書いてくれたけど、各自治体が税金を使う大義名分として、国体(現・国民スポーツ大会)と関連付けて建設されているからね。郊外にある『総合運動公園』として建てられることが多くて、必然的にアクセスが悪い場合も多いんだよね」

川端「“国体悪者論”に関しては一部誤解もあるけどね。そもそも国体がなければスタジアム自体が存在しなかったというケースがほとんどだと思うから(苦笑)。そして国体で作られたスタジアムの有効活用手段として『Jクラブ』が後押しされるケースもしばしばあったという歴史的な流れもある。ただ、そもそも『プロの興行』を目的として建てられていない自治体所有のスタジアムばかりというのは日本の現実としてあったよね」

浅野「そうだね。俺も必ずしもそれが悪いものだとは思っていないんだけど、現状が『なぜそうなっているのか?』を知ることで、次に何をすべきかが見えてくるかなとは思っています」

川端「日本の建設業界のパワーが著しく低下している現実もあるし、地方になるとその傾向はより顕著でしょう。いろいろな意味で日本のスタジアム整備は難しいんだけど、逆に一周まわって、行政任せじゃない形で主導権持ってやってくぞというケースが増えてきた印象がある。ピンチはチャンスというか。行政が金を出せなくなっている分、逆に『ビジネスとしてのスタジアム建設』というアプローチも出てきたというか」

浅野「Jリーグの新スタジアムブームには2つの流れがあると思っていて、1つはいま川端さんが話してくれた『スタジアムのビジネス化』。サッカークラブの収益源は入場料収入、TV放映権料、スポンサー・グッズ収入などがあるけれど、それを最大化するためにはスタジアムに手を付けないとどうにもならんだろう、という結論に多くのJクラブがなった。そして、もう1つがもっと大きな枠組みでの国としての方針がありますよね。現在のスタジアムブームの大きなきっかけとして、2016年に政府が掲げた『日本再興戦略2016』が挙げられます。その中では、『官民戦略プロジェクト10』における新たな有望成長市場の1つとして、『スポーツの成長産業化』が示された。そして翌2017年に閣議決定された『未来投資戦略 2017―Society 5.0の実現に向けた改革―』で、2025年までに全国で20カ所のスタジアム・アリーナの実現を目指すことが具体的な目標として掲げられ、これを受けてスポーツ庁が『スタジアム・アリーナ改革』というプロジェクトを推し進めてきました。これに関しては今治の矢野社長が特集内のインタビューで触れてくれています」

川端「スポーツ庁ができたのはデカい。スポーツ界のロジックが通るようになってきたし、スポーツ産業への投資をしていこうという流れもある。スポーツは『教育』とか『福祉』のロジックにあったのを解体して、『産業』としての定義づけも進めよう、と。部活の地域移行とかを含めて文科省、というかその後ろにいる財務省がお金を出したくないから自給自足でやってくれという背景もあるんでしょうけど、大きな転換が来ているのは感じます。かつて日本ではプロスポーツは不浄のモノと扱われた時代もあったことを思えば、大きな変化です」

浅野「時代の流れでもあるよね。アメリカンスポーツはそれで大きな成功を収めているし、その流れは欧州サッカーにも大きな影響を与えています。日本もそこにチャンスが眠っているなら……ということですよね」

川端「まあ、それだけ日本に成長できそうな産業がなくなってるということでもあるのかもしれない(笑)」

浅野「クールジャパンの文脈でもある(笑)」

川端「まあ、Jリーグを筆頭とするサッカー産業は、バブル崩壊直後に始まったにもかかわらず、下り坂の中で成長してきた稀有な事例の一つではあるんでしょうね。何にせよ、クラブが立ち上がった時にはすでにあった『箱』を文句言いながら使い続けるんじゃなくて、自分たちで新しい、使いやすい『箱』を作っていこうというムーブメントは、サッカーファンとして歓迎できるものだとは思っています」

エンターテインメントの『箱』として求められるもの

……

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Profile

川端 暁彦

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣『エル・ゴラッソ』を始め各種媒体にライターとして寄稿する他、フリーの編集者としての活動も行っている。著書に『Jの新人』(東邦出版)。

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