「プレーしていて楽しい。観ていて楽しい」を取り戻すための再チャレンジ。サガン鳥栖・樺山諒乃介が極める唯一無二のスタイル
プロビンチャの息吹~サガンリポート~ 第1回
ひとたびこの男がボールを持てば、駅前不動産スタジアムにワクワク感が充満する。サガン鳥栖の41番、樺山諒乃介。型破りなドリブラーのプレーには、ハッキリとした華がある。ただ、それだけでは頂上まで駆け上がれないのも、プロの世界の厳しさ。21歳の若武者はもがきながら、自分のスタイルを極めようと前を向く。そんな樺山の今を、鳥栖を丹念に取材している杉山文宣が教えてくれる。
鮮烈な初ゴール。ポジティブにつかんだ数字以上の手応え
「最近、サッカーが楽しくないなって感じていて」
3月中旬、サガン鳥栖加入2年目のシーズンをスタートさせたばかりの樺山諒乃介は偽ることなく、その胸中を明かした。昨季も今季もスタートは悪くなかった。加入1年目だった昨季、新天地での初ゴールは鮮烈なものだった。第2節・ガンバ大阪戦の後半15分からピッチに立つとその4分後、樺山はスタジアムに訪れた25,865人の度肝を抜く。
エリア内でパスを受けると樺山に“仕掛けのスイッチ”が入る。寄せてくる相手選手3人を次々とかわし、GKのニアを撃ち抜く衝撃のゴラッソ。後にJ1・3月度のベストゴールにも選出される名刺代わりの一撃は、その先の樺山の歩みに期待を抱かせるものだった。
しかし、その輝きがシーズンの最大値になってしまった。その後も樺山に与えられるのは、後半からゲームチェンジャーとしての役割を期待されての途中出場が主体となり、終わってみれば先発は1試合のみ。リーグ戦22試合出場2得点という数字は“名刺代わりの一撃”で抱かせた期待値から考えれば、物足りない数字になってしまった。
それでも、シーズンを振り返って樺山自身は前向きだった。「今季(2023年)はメンバーから外れた時期も試合に絡んでいた時期もありました。いろいろな波がある中でも自分にフォーカスして常に練習はできていた。(川井)健太さんもよく声を掛けてくれて、自分の良いところ、悪いところを年間とおして言い続けてくれました。練習だけでも成長できた一年間だったかなとは思っています。得点は2点だけですけど、自分にはまだできることがあると再確認できました。決してネガティブではなくポジティブなシーズンでした」と数字以上の手応えを感じていた。
消えた天衣無縫なプレー。「丸くなってしまっている」自分への葛藤
しかし、いまになって振り返れば、そう思っていたこと自体が樺山らしくなかったのかもしれない。新たなシーズンを迎えた今季、沖縄キャンプでの練習試合では自身の代名詞でもあるドリブルが鳴りを潜めてしまっていた。守備陣にけが人が相次ぐという不安定なチーム状況も影響したが、本来、誰よりも個性的なはずの樺山の存在は没個性的になっていた。
それでも、開幕戦のスタメンには樺山の名前があった。主力の一角と見られていた中原輝が開幕直前に負傷離脱したことが影響した形だったが、加入2年目でつかんだ開幕スタメンに当然、樺山自身も気持ちをみなぎらせていた。
ただ、沖縄キャンプから続いていた没個性状態はこの試合でも変えることができなかった。持ち味のドリブルで仕掛ける機会はまったく無し。56分という早いタイミングで交代を余儀なくされると次節以降、樺山の名前は18人の試合メンバー表から消えることになった。
「開幕戦は個人的にまったく良くなかったのは事実で、あのあとすぐにメンバーから外れてしまいましたけど、(川井)健太さんが自分を外した理由も分かっているつもりです」……
Profile
杉山 文宣
福岡県生まれ。大学卒業後、フリーランスとしての活動を開始。2008年からサッカー専門新聞『EL GOLAZO』でジェフ千葉、ジュビロ磐田、栃木SC、横浜FC、アビスパ福岡の担当を歴任し、現在はサガン鳥栖とV・ファーレン長崎を担当。Jリーグを中心に取材活動を行っている。