ポルトの堅守を破ったラストパス。2戦合計同点弾の裏側、ウーデゴールの駆け引きを読む【アーセナルCLラウンド16第2戦レビュー】
せこの「アーセナル・レビュー」第10回
ミケル・アルテタ監督の下で一歩ずつ着実に再建を進めているアーセナル。その復活の軌跡をいち”グーナー”(アーセナルサポーターの愛称)でありながら、様々な試合を鋭い視点でわかりやすく振り返っているマッチレビュアーのせこ氏がたどる。
今回はPK戦の末に勝ち抜けたCLラウンド16ポルト戦の第2レグをレビュー。2戦合計同点弾で堅守を破ったラストパスの裏側、ウーデゴールの駆け引きを中心に分析する。
敵地エスタディオ・ド・ドラゴンでのCLラウンド16、1stレグでは、試合終了間際の手痛いガレーノの一撃で1-0の敗戦を喫したアーセナル。2024年はリーグ戦で全勝の一方、カップ戦ではFAカップも含め全敗と明暗がくっきりと分かれている。14年ぶりの8強入りには今年初のトーナメント戦白星が最低条件だ。
そんなホームチームは1stレグから1人を入れ替え。負傷離脱のマルティネッリに代わりアンカーにジョルジーニョが入った。左インサイドハーフに上がったライスに押し出される形でCFにはハヴァーツが入り、トロサールは3トップの中央から左に移動。対するポルトは前回とまったく同じ11人をリピートすることとなった。
縦横に広げるためのハヴァーツとジョルジーニョ起用
本題に入る前に1stレグの簡単な振り返りをしておこう。アーセナルはポルトの強固な[4-3-3](4-1-4-1)守備ブロックの前にボールを絡め取られてしまい、ゴールどころかチャンスを生むことすら難しかった。
ポイントはポルトが中央をコンパクトに保ち、アンカーのヴァレラを軸とする中盤がカバーリングの網を張り、CFトロサールを中心とした中での起点づくりをアーセナルに許さなかったこと。相対的に守備が手薄になるサイドでも特に右ウイングのサカの出来が悪く、効果的な攻撃の糸口を構築できなかったことである。
2ndレグもほぼ論点は変わらない。アーセナルが敗退を免れるには同じプランでエミレーツに乗り込んできたポルトをポゼッションから攻略する必要があった。方法は単純に相手の3センターの仕事量を増やすこと。そのためには彼らのカバーエリアを広げる必要がある。まずは縦方向。CFの裏抜けが一番手っ取り早い手段だ。トロサールはゾーンの切れ目に降りるアクションを行いながら、自らが前を向いて攻撃を加速させる動きに長けている。
一方2ndレグのCFハヴァーツはスペースに走りながらロングボールを引き出すスタイル。それぞれに良さがあるが、ポルト相手に有用なのが後者なのは明らかである。単なるマルティネッリの穴埋めではなく、1stレグからの改善も図った人選だと言えるだろう。
次は横に広げる方策を考えたい。ポルトはウイングが外切りしつつ、CFのエヴァニウソンが横パスのコースを切ることで、ボールホルダーの選択肢を限定していた。前線が左右へのプレーを制限することで中央への縦パスを誘発していたからこそ、中盤が狭い守備範囲でボールをきっちり刈り取ることができていた。
つまりポルトを攻略するには、この誘導を外すようなパスワークをすればよい。具体的にはそのウイングの背後にあるスペースを使うことができればいいのである。そこでアーセナルが工夫を施したのは、ビルドアップにおけるシステムの微調整である。
1st レグではアンカーのライスの脇に、右のSBのホワイトがIHのウーデゴールと交互に降りてくる動きを見せていた。いわゆる[3-2-5]への変形である。しかしながら、この形だと外切りを越えたとしても大外レーンを使えるアーセナルの選手は、ポルトのSBにタイトに監視されているウイングだけ。厳しいマークを受け続けることになるのは自然である。
そのためか2ndレグでのアーセナルは、アンカーに対して横に並び立つ動きを抑え、ポルトのウイングの背後に常にSBが控えている形を作っていた。構造的には外に繋げさえすればスムーズに前進が可能になる。サポートなしでもゲームメイクできるジョルジーニョが中盤の底に入ったからこそ実現した微調整だと言えるだろう。
前半をこう着させたハイプレスとパスワークの攻防
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Profile
せこ
野球部だった高校時代の2006年、ドイツW杯をきっかけにサッカーにハマる。たまたま目についたアンリがきっかけでそのままアーセナルファンに。その後、川崎フロンターレサポーターの友人の誘いがきっかけで、2012年前後からJリーグも見るように。2018年より趣味でアーセナル、川崎フロンターレを中心にJリーグと欧州サッカーのマッチレビューを書く。サッカーと同じくらい乃木坂46を愛している。