インテルの計算された独自性。「誘引」のための流動的ビルドアップ+縦加速で裏をアタックする2トップ
CALCIOおもてうら#6
イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。
今回は、2位ユベントスに大差をつけてセリエAを独走するインテルをフォーカス。ヨーロッパ全体の中でも独自性の高いシモーネ・インザーギの戦術を徹底解剖してみよう。
ここまで27節、シーズンの7割を消化したセリエAだが、スクデット争いはすでに決着したと言っていい。残り11試合となった現時点で、首位インテルと2位ユベントスの勝ち点差は15。Optaが独自のアルゴリズムで毎週更新しているAI順位予想は、すでにインテルの優勝確率を100%と断じている。
年明けに前半戦を折り返した時点では、インテルが勝ち点48、ユベントスが46とわずか2ポイント差の接戦状態だった。ところがそこからの8試合は、インテルが8連勝(勝ち点+24)を挙げたのに対し、ユベントスは3勝2分3敗(勝ち点+11)止まり。差が開いて大勢が決した。
決定的だったのは、2月4日(第23節)に勝ち点4差で迎えたサンシーロでの直接対決。ユベントスが勝てば勝ち点1差に迫りシーズンの流れが一気に変わる可能性もあったが、ここでインテルは結果(1-0)以上に内容で明らかな違いを見せつけ、勝ち点差7まで突き放す。実際、インテルの決勝点はガッティのオウンゴールだったが、xG(ゴール期待値)は1.7-0.6と、作り出した決定機には明白な差があった。
そして続く4試合、勝ち点3をしっかり積み上げるインテルに対し、ユベントスは緊張の糸が切れたかのように1勝1分2敗と取りこぼしを重ね、シーズン閉幕まで2カ月半を残した時点で早くも、セリエAの優勝争いに決着がついた。昨シーズンのナポリ同様、2位以下を圧倒的に引き離しての独走である。このペースで行けば勝ち点100の大台も不可能ではない。
ドリブルは少なく、決定機はクロスとスルーパス
勝ち点差以上に際立っているのはそのパフォーマンスだ。ここまで69得点・13失点はともにセリエAトップなのはもちろん、5大リーグ全体でもトップの数字。アーセナルやバイエルンより多く得点を挙げ、レバークーゼンやレアル・マドリーより失点が少ない、と言えば伝わるだろうか。
これだけ多くのゴールを挙げているとはいえ、インテルのサッカーはそれほど強く「攻撃的」な印象を与えるものではない。ボール支配率は56.3%で、ナポリ、フィオレンティーナ、ボローニャに次ぐリーグ4位だが、ポゼッションで相手を押し込み常に敵陣で試合を進めるわけではなく、チームの重心も決して低くはないが取り立てて高くはない。
どれだけ相手を押し込んだかの指標となるフィールドティルト(Field Tilt/ファイナルサードのみでのボール支配率)を見ても、5大リーグでトップのマンチェスター・シティが74%、セリエAトップのフィオレンティーナが66%あるのに対し、インテルは56%と、リーグ上位クラブの中では目立って低い(ジローナを除けばだが)。
注目すべきは、それにもかかわらず、作り出している決定機が質と量のいずれにおいても際立っているところ。シュート数(1試合平均15.3)はナポリ(同16.1)に次いでリーグ2位だが、枠内シュート数(同5.1)は1位、そしてPKを除いたシュートのxG(同1.83)は2位のアタランタ(同1.41)に大きな差をつけてのダントツ1位だ。そして、実際に挙げている得点はそのxG、つまりゴール期待値をさらに上回っている。
つまりインテルは、それほど相手を押し込んでいるわけではないにもかかわらず、xGの高い良質な決定機を数多く作り出し、しかもそれを期待値以上に高い決定力でゴールに結びつけている、ということになる。ではその秘密はどこにあるのか。……
Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。