Good Times Bad Times 〜フットボール春秋〜 #2
プレミアリーグから下部の下部まで、老いも若きも、人間も犬もひっくるめて。フットボールが身近な「母国」イングランドらしい風景を、在住も25年を超えた西ロンドンから山中忍が綴る。
footballista誌から続くWEB月刊連載の第2回(通算236回)は、今やどのチームも本気で優勝は目指していない?イングランド第2の国内カップ戦について。
アカデミー産の若者たちをクロップが、ベテランが、ファンが支えて
リーグカップの存在価値とは? イングランドでは、1960年に始まった国内第2のカップ選手権が開催され続ける意義が論じられるようになって久しい。前半戦からプレミアリーグ選手のケガが記録的に増えた今季、現場の意見は「なくてもよい」から「なくせばよい」へと変わりつつあると思えた。
2月25日にウェンブリー・スタジアムで行われた決勝は、リバプールがチェルシーとの接戦を劇的に制した。攻撃的なチーム同士のオープンな展開。互いに1点ずつノーゴールのVAR判定を受け、1本ずつシュートがポストを叩き、GKが4度ずつファインセーブを披露した一戦は、両軍無得点での延長戦突入が信じ難い。唯一の得点が生まれたのは、終了間際の118分。リバプール主将のフィルジル・ファン・ダイクが、ヘディングでネットを揺らした。
何より、ユルゲン・クロップ率いるリバプールによる美しい勝利だった。今季限りでの名将退任が決まっているからというだけではない。ピッチ上で自軍の優勝を告げる笛を聞いたイレブンには、5人も21歳以下のアカデミー出身者がいたのだ。後半に若手をベンチから送り出し始めたクロップが、スタンドに向かって「背中を押してやってくれ」と言わんばかりのジェスチャーをすれば、ウェンブリーの半分を埋めたリバプールファンも、歌って指揮官の願いに応えていた。
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Profile
山中 忍
1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。