クラブの「内」にいるが、チームの「外」にいる井筒陸也が、いま考えていること
“新興サッカークラブ”の競争戦略
J30年目に新しいクラブをつくるリアル#1
徳島ヴォルティスでプレーした元Jリーガーで、サッカー選手のステレオタイプを疑うユニークな記事発信で話題になった井筒陸也は現在、本人が「ベンチャーサッカークラブ」と語るクリアソン新宿で広報とブランディングを担当している。『敗北のスポーツ学』でもテーマにした「勝つこと」以外にも価値を見出す異質なメガネを持つ彼の目から見た“新興サッカークラブ”のリアルな舞台裏、そこから見える新しい時代を生き抜く競争戦略とは?
第1回は、なぜ「サッカークラブで働く」ことを題材に選んだのか――その経緯と思考プロセスを紹介することで、連載開始のご挨拶としたい。
「絶版」のお知らせ……ではなかった
年末、と言っても調べると12月21日だったのだが、footballistaの編集長から飯の誘いが来た。footballistaとは、私の最初で最後になるだろう書籍(『敗北のスポーツ学』)を出させていただいた出版社である。
お誘いいただいたメッセンジャーには、河内一馬も同席すると書いてある。河内くんは昨シーズンまで鎌倉インターナショナルFCの監督を務め、前述の書籍を同時発売させてもらったご縁がある。
彼とは公私ともに仲良くしていて、今は「スポーツが憂鬱な夜に」というPodcastプログラムでユニットを組んでいる。そういうこともあり、双方が誘われたこの食事の前に、汐留のスターバックスでそのPodcastの打ち合わせを、となった。
開口一番「これ何の食事会なんですかね?」とどちらともなく言った。もちろん、これまでもfootballista編集長には懇意にしてもらってきたが、あらためて食事となると……?そう言えば河内くんの書籍の方が、しばしばAmazonで在庫切れになるという話を聞いた。
「ああ、これは仲良く絶版のお知らせですかね」という結論に至り「そうだね、間違いないね」と合意し、まあそれならそれで仕方がないということで、切り替えて打ち合わせに励むことになった。そして時間になると仲良く連れ立って、指定されたfootballistaオフィス近くのシュラスコを出す店に向かった。
すると、この連載のオファーだったわけである。メディアは死んでいなかった(すいませんでした)。なんでも、footballista のリニューアルに際して、2人の連載をもってそこに華を添えたいという。河内くんはさておき、井筒では弱いのではという気がしないでもなかったが、ぜひ、やらせてくださいと伝えた。そして、テーマを考える運びになった。
「内」で感じているリアルを伝えたい
さて、僕は、何を書けばいいんだろう。
僕が公に書くことを始めたのは、大学4年生の時のリレーブログだったと思う。全タイトル制覇の懸かるインカレの決勝前日の投稿回をキャプテン権限でおさえて、準決勝と決勝の間のホテルでキーボードを叩いていたのだから、今振り返るとおかしなことをしていたと思う。無事にタイトルを獲り切り、Jリーガーになって、試合にも出られるようになった3年目にnoteを始めた。Jリーガーのくせに「結果がすべては大嘘」というブログをしたためて、ささやかに炎上し、そこで読者を獲得。いくつかサッカーメディアで単発、そして連載をさせてもらった。書籍まで出版させてもらった。
ただ、筆も遅いので世に出した文字量は少なく、したがって、自分の文筆業としてスタイルは定まっていない。何より、現役のサッカーから離れ今年で3年目になる自分に、何が語れるのだろうという無力感がある。これが大きな悩みである。
こう思うのは、僕がプレイヤーの立場だった時に「外」の人間に知ったかぶりをされるのが、とても嫌だったからだ。「外」から、予想したり評価したりするのは、自由だ。一方で「内」にいる人間がそうした行為を嫌うのも自由だと、存分に嫌わせてもらっていた。
僕は、クリアソン新宿というサッカークラブにいる。そういった点では、「内」の人間とも言える。しかし、僕がどうしてもこれまでと同じようには書くことができないのには理由がある。
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Profile
井筒 陸也
1994年2月10日生まれ。大阪府出身。関西学院大学で主将として2度の日本一を経験。卒業後は J2徳島ヴォルティスに加入。2018シーズンは選手会長を務め、キャリアハイのリーグ戦33試合に出場するが、25歳でJリーグを去る。現在は、新宿から世界一を目指すクリアソン新宿でプレーしつつ、同クラブのブランド戦略に携わる。現役Jリーガーが領域を越えるためのコミュニティ『ZISO』の発起人。