TACTICAL FRONTIER 進化型サッカー評論#1
『ポジショナルプレーのすべて』の著者で、SNSでの独自ネットワークや英語文献を読み解くスキルでアカデミック化した欧州フットボールの進化を伝えてきた結城康平氏の雑誌連載が、WEBの月刊連載としてリニューアル。国籍・プロアマ問わず最先端の理論が共有されるボーダーレス化の先に待つ“戦術革命”にフォーカスし、複雑化した現代フットボールの新しい楽しみ方を提案する。
第1回は、GKに欠かせない「ハンド・アイ・コーディネーション」というスキルについて掘り下げる。
惜しまれながら2022年にチェルシーを離れたクリストフ・ロリションは、 多くのGKを育てた名コーチだった。その中でも愛弟子として知られたのは、チェコ代表でも活躍したペトル・チェフ。その長いリーチを武器にしたセービングで知られた守護神は、幼少期はアイスホッケーをプレーしていたことでも知られている。引退後はアイスホッケーのGKとしてもプレーしている彼は、GKとしての成長に貪欲な選手だった。特に彼が意識していた能力こそが、ハンド・アイ・コーディネーションだ。
チェフはフランスリーグのレンヌに所属していた頃、ロリションのトレーニングに感銘を受けていた。チェルシーで彼と再会したことで、その師弟関係は続いていく。チェフは、彼の先進的なトレーニングについて次のように述べていた。
「20年間プロのGKとしてプレーしている選手は、15ヤードからのシュートを止める練習では成長しない。ただボールを止めるだけでは、能力は向上しない。トレーニングを複雑にすることで、脳のスイッチを押す。それこそが、ロリションのトレーニングメソッドだった。違うスピードで違うサイズのボールを使うことで、ハンド・アイ・コーディネーションを調整しなければならない。ピンポン玉を片手でつかむトレーニングでは、まったく違うハンド・アイ・コーディネーションが求められる。トップレベルでは、小さな差を求めていかなければならない。80歳になっても、新しいことを学ぶことができる」
また、チェフは次のように述べている。
「アイスホッケーとサッカーのGKは、根本的に異なっている。しかし、ハンド・アイ・コーディネーションが求められる点は同じだ」……
Profile
結城 康平
1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。