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サンシーロ大改修か、完全新設か。混迷極めるミラン&インテルの「新スタジアム計画」

2024.02.23

CALCIOおもてうら#4

イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。

今回は、特集記事「セリエA新スタジアム建設ブームの背景(前編後編)」の続編として、二転三転しているミラン&インテルの新スタジアム計画の現状を読み解く。

 欧州屈指の「スタジアム後進国」だったイタリアにも、ここにきてようやく新スタジアム建設の動きが活発化している。すでに稼動しているユベントス、ウディネーゼ、アタランタ(部分的に工事継続中)に加えて、ボローニャ、フィオレンティーナ、カリアリのスタジアムも計画が確定して着工目前、さらにミラン、インテル、ローマも具体的な構想を固めつつある。

「新サンシーロ計画=取り壊し案」はとん挫

 中でも、セリエAとイタリアサッカーにとって最もインパクトが大きいのは、やはりユベントスと並んで国際的な競争力を持つメガクラブであるミランとインテルの動向なのだが、これが、なかなか一筋縄では行かない複雑な状況に陥っている。

 2019年から進められていた「新サンシーロ計画」が、4年以上にわたるすったもんだの末、「セリエA新スタジアム建設ブームの背景」でも触れたイタリア特有の様々な障害に行く手を阻まれてとん挫。両クラブが個別に自前のスタジアム建設に動き出したところで、今度はミラノ市が独自に現サンシーロの大規模改築計画をぶち上げるという、よくわからない展開になっているのだ。

 ご存知の通り、現在ミランとインテルが本拠地として共有しているのは、「サンシーロ」という通称で知られるスタディオ・ジュゼッペ・メアッツァ。11本の巨大な円柱に囲まれ赤い鉄骨で支えられた屋根が特徴的な外観を持ち、最大8万人を収容するこのスタジアムは、カンプノウやベルナベウ、オールド・トラッフォードやアンフィールドと並んで、欧州サッカーを代表する歴史的スタジアムの1つであり、都市ミラノを代表するモニュメントの1つでもある。

EURO2024予選、イタリア対ウクライナ戦の会場となったサン・シーロ

 しかし、今から100年近く前の1925年に作られたスタジアム躯体(現在の1階席部分)をベースに、1955年に2階席、90年のイタリアW杯開催時に外周部分の円柱と3階席と、それこそ屋上屋を重ねるように増築されてきた結果、様々な面で現代のスタジアムに要求されるクオリティを満たしていないという、根本的な問題を抱えている。

 象徴的なのは、カンプノウやベルナベウのシート1席当たりの売上高が70ユーロ前後なのに対し、サンシーロは30ユーロ前後と半分以下に留まっているという事実に表れたスタジアムとしての収益性の低さ。クラブの収益力がピッチ上の競争力を直接的に左右するというプロサッカークラブの厳しい現実の中で、ミランとインテルが今後も欧州のトップレベルに留まり続けるためには、より収益性の高いスタジアムを、しかも少しでも早く手に入れる必要があることは明白だ。

 その認識をともにするミランとインテルは2019年、現サンシーロに隣接する広大な敷地(現在は駐車場)に6万5000人収容の新スタジアムを建設し、その完成後に現サンシーロは取り壊して、スポーツ公園、オフィスビル、ショッピングセンターなどの複合施設を持つ街区に一体を再開発するという構想を打ち出した。……

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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