ファンウェルメスケルケン際と三浦颯太。川崎Fに新風を吹かせる両SBの挑戦
フロンターレ最前線#1
「どんな形でもタイトルを獲ることで、その時の空気感を選手に味わってほしい。次の世代にも伝えていってほしいと思っています」――過渡期を迎えながらも鬼木達監督の下で粘り強く戦い、再び優勝争いの常連を目指す川崎フロンターレ。その“最前線”に立つ青と黒の戦士たちの物語を、2009年から取材する番記者のいしかわごう氏が紡いでいく。
初回では黄金期からチームを支えた山根視来と登里享平に代わって新風を吹かせる両SB、ファンウェルメスケルケン際と三浦颯太の挑戦を追う。
今季、川崎フロンターレの両SBに新しい風が吹いている。
昨年までは山根視来と登里享平がレギュラーとして君臨していたポジションである。だが、今オフに山根はLAギャラクシー、登里はセレッソ大阪に移籍となった。今季は左右のファーストチョイスの席が空いたのである。
興味深かったのは鬼木達監督の見解だ。
今シーズンの全体練習初日の練習後のこと。いつになく主力級選手の入れ替えがあって挑むチームについて、こんな期待を込めた言葉で話している。
「次、誰か新しい人が出てくるだろうという期待が自分の中ではあります。いろんなところで自分から(チームに)変化を起こせなくても、逆に自然と起きるときもありますし、そういうものをすごくポジティブに捉えながらずっとやってきてるところもありますね」
鬼木監督は囲み取材の場で強がりを言ったり、三味線を弾くようなタイプではない。実際に、この3シーズンの間で守田英正、三笘薫、田中碧、旗手怜央、谷口彰悟と主力が次々と海外移籍を果たしてもタイトルをもたらし続けてきた実績もある。素直な本音だったようにも聞こえた。
在籍中はケガなくフル稼働し、カタールW杯にも出場した元日本代表右SBの山根と、卓越した戦術眼を持ち、ピッチ内外で欠かせない存在だった左SBの登里。そんな左右の主軸がいなくなっても、必ず新しい存在が出てくるとどこか確信していたのである。
今オフにクラブが獲得したSBは、三浦颯太とファンウェルメスケルケン際だ。
ヴァンフォーレ甲府から獲得した左SBの三浦は大卒2年目。追加招集された日本代表でデビューを果たし、今年の元日には代表キャップも刻んだ。縦の仕掛けとクロス精度に特徴がある俊英である。
右SBが主戦場のファンウェルメスケルケン際は、甲府の下部組織育ちで高校卒業時にオランダへ渡り、複数のプロクラブでキャリアを積んできた29歳。状況判断が的確で、上下動だけではなく中央に入っての局面打開やコンビネーションが持ち味の現代型SBだと言える。
この2人が、今季のチームスタイルにどんな風をもたらしていくのか。
実はこの2月、クラブの応援番組である『ファイト!川崎フロンターレ』(テレビ神奈川)の企画として、開幕直前にインタビューさせてもらう機会に恵まれた。
両者のインタビューはすでに放送済みなのだが、今回の連載ではその取材を通じて自分なりに感じたことを紹介していこうと思う。
ダメ元で自作PVを売り込み渡蘭。文武両道の29歳は第2章へ
まず、ファンウェルメスケルケン際。
これ以上ない形で日本でのプロデビューを飾った選手だと言えるだろう。
番組のインタビューがオンエアされたタイミングが富士フイルムスーパーカップの前夜だったのだが、その翌日に初スタメンを飾り、まさかゴールまで決めるとは思いもよらなかった。48分、セットプレーのこぼれ球を詰めた形が先制点となり、これがタイトルをもたらす決勝弾となった。地上波でも放送された試合で、その日のスポーツニュースでも多く取り上げられた。あの長い名前も一躍世に知れ渡ったに違いない。
インタビュー取材を通じて感じたのが、その聡明さである。こちらの質問に対して丁寧に言葉を並べてくれるタイプで、語彙も実に豊富だ。
聞くと、山梨・甲陵高校時代は文武両道に励み、国立大学を目指していたという。オランダに渡った後も選手生活と並行してスポーツビジネスを学んでいた。学生時代だけではなく、海外でプロになってからも継続して勉学に励み続けるタイプはそう多くないだろう。そこの疑問を尋ねると、彼の中でサッカーと勉学は両輪なのだと明かしてくれた。……
Profile
いしかわごう
北海道出身。大学卒業後、スカパー!の番組スタッフを経て、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の担当記者として活動。現在はフリーランスとして川崎フロンターレを取材し、専門誌を中心に寄稿。著書に『将棋でサッカーが面白くなる本』(朝日新聞出版)、『川崎フロンターレあるある』(TOブックス)など。将棋はアマ三段(日本将棋連盟三段免状所有)。Twitterアカウント:@ishikawago