さようなら、モウリーニョ(前編)。ロマニスタと共鳴した「対立型リーダーシップ」の功罪
CALCIOおもてうら#2
イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。
今回は、1月16日にローマの監督を解任されたジョゼ・モウリーニョについて、インテル時代の栄光を記した『モウリーニョの流儀』の著者でもある筆者が想いを綴る。前編では「対立型リーダーシップ」が生んだ不思議な“ねじれ現象”について掘り下げる。
ジョゼ・モウリーニョがローマ監督を解任されてから、1カ月が過ぎようとしている。いささか個人的な感慨になるが、この解任は筆者にとって1つの時代の終わりを感じさせるものだった。
それは、これが彼にとって直近に率いた4チーム連続での途中解任だからという理由だけではない。むしろ大きかったのは、彼が監督として偉大なキャリアを築いてきたそのメソッド、いうなれば「モウリーニョの流儀」が、多くの面で時代にそぐわなくなってしまったことが、あらためて白日の下にさらされたように見えたことだった。
今回の解任をめぐる状況は、ある意味で非常に奇妙なものだった。ピッチ上の結果は、期待を大きく裏切るネガティブなものだった。にもかかわらず、サポーターはモウリーニョを熱烈に支持/擁護し続け、この不振はオーナーや選手の責任だと今なお信じて、専らそちらに批判と攻撃の矛先を向けている。ここに見られるある種の「ねじれ」は、モウリーニョの現在を象徴するものであるようにも思える。
ピッチ上の成績とサポーターの評価の「ねじれ」現象
ピッチ上の結果に目を向けてみよう。
前半戦終了時点で勝ち点29というのは、過去20年で2番目に少ない数字。唯一これ以上に酷かった04-05は、プランデッリ、フェラー、デルネーリと2度の監督交代を繰り返した21世紀に入って以来最悪のシーズンだった。
それだけではない。過去10年間ローマを率いた6人の監督(ガルシア、スパレッティ、ディ・フランチェスコ、ラニエーリ、フォンセカ、モウリーニョ)の中で、通算成績が最も悪いのもモウリーニョだ。セリエA、欧州カップ戦、コッパ・イタリアという公式戦を通算して、勝率が50%に届かないのは彼だけ。就任からの2年半を通じて、インテル、ミラン、ユベントス、ナポリ、アタランタなど順位が上にいるチームとの直接対決にはほとんど勝てないまま終わった。……
Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。