アーセナルがサラーに同点弾を許した要因はジンチェンコだけに非ず。リバプールとの首位攻防戦を分析する
せこの「アーセナル・レビュー」第7回
ミケル・アルテタ監督の下で一歩ずつ着実に再建を進めているアーセナル。その復活の軌跡をいち”グーナー”(アーセナルサポーターの愛称)でありながら、様々な試合を鋭い視点でわかりやすく振り返っているマッチレビュアーのせこ氏がたどる。
今回は注目の2023-24プレミアリーグ第18節リバプール戦を徹底レビュー。首位決戦が激しい攻防を繰り広げながらも1-1の痛み分けに終わった理由を探る。
ハイプレスを狂わせたリバプールの乱数と横移動
前日12月23日のシェフィールド・ユナイテッド戦で3位アストンビラ(勝ち点38/得失点差15)の積み上げが1ポイントにとどまったことにより、プレミアリーグ第18節を首位で終えるチームはアンフィールドで直接対決を行う2位リバプール(勝ち点38/得失点差21)と1位アーセナル(勝ち点39/得失点差20)のどちらかに絞られることに。勝者がテーブルのトップでクリスマスを迎えることになる一戦であった。
前半の主役となる局面は、互いに[4-3-3]を基本とするリバプールのポゼッションとアーセナルのプレッシングをめぐる駆け引きだった。前節ブライトン戦でマンツーマンでの強烈なハイプレスを見せたアウェイチームは、この試合では高い位置から追いかけまわす意思はあるものの、オールコートマンツーマンと言えるほど高い位置から追うわけではなかった。
CBに常時プレスをかけるのはCFのジェズス1人だけ。2人目としてCBにプレスをかけにいくのは左インサイドハーフのハヴァーツであるが、彼は中盤に構える形を基本として時折右CBコナテにプレッシャーを与える。このハヴァーツのコナテへのアプローチがアーセナルのハイプレスの合図。ジェズスが利き足ではない左足側からプレスをかけて、リバプールの右側にパスを誘導したところにハヴァーツがスイッチオンの追撃。これにより、後方から左SBジンチェンコが縦にスライドを行ったり、逆サイドのインサイドハーフであるウーデゴールがプレスの出張に来る。
開始4分にセットプレーからアーセナルがあっという間に先制点を奪ったため、スコアレスの状態でのサンプル数は極端に少ないが、それでも限られたスコアレスの状況でマンツーマンでのハメ込みは行っていなかった。アーセナルのプレスがブライトン戦よりも強気でなかったのは、早々に得たリードだけが理由ではないと考えた方が妥当だろう。
このプレスをリバプールは退ける。アーセナルはハヴァーツが起点となって相手を右サイドに限定するプレッシングに対して逆サイド側にはそもそもスイッチを入れるきっかけを作っていなかったため、こちらのサイドにボールを運べばリバプールは落ち着いて敵陣にボールを押し込むことができる。
そうして時間が経過するうちに、リバプールは逆サイドでも徐々にプレスのメカニズムを乱していく。前にスイッチを入れにいくハヴァーツの背後に人を置くことでそのスイッチを入れることを牽制する。いつもであればハヴァーツの背後に当たる位置に立つのはインサイドに絞る右SBのアレクサンダー=アーノルドであることが多いのだが、この日は右インサイドハーフのショボスライやCFのガクポといった面々が入れ替わり立ち替わり入っていくという相違点があった。決まった選手が移動するだけではアーセナルは迷いなくついてくるという判断なのだろう。単にポジションを動かすのではなく誰が動くかという乱数を入れることで、リバプールは徐々にハヴァーツがスイッチを入れることを阻害していく。
もう1つポイントになっていたのはリバプールの横移動である。この主役になっていたのは左インサイドハーフのカーティス・ジョーンズ、そしてアンカーの遠藤。左サイドで一度ボールを受けて、右ウイングのサカの配置を決めた後にインサイドに動き直してボールを受ける形である。
サカはリバプールがバックパスをしてもさらなる深追いをしない。ウーデゴールは遠藤もしくはジョーンズのボールを受けない方をマークする。すなわち、このマイナスのパスのキーはジェズスに深追いさせること。彼がボールを追いかけているうちにボールを受ける選手は横に移動をする。これによりパスコースを切ることができないという悪循環に陥っていた。……
Profile
せこ
野球部だった高校時代の2006年、ドイツW杯をきっかけにサッカーにハマる。たまたま目についたアンリがきっかけでそのままアーセナルファンに。その後、川崎フロンターレサポーターの友人の誘いがきっかけで、2012年前後からJリーグも見るように。2018年より趣味でアーセナル、川崎フロンターレを中心にJリーグと欧州サッカーのマッチレビューを書く。サッカーと同じくらい乃木坂46を愛している。