ゼルビア・チャレンジング・ストーリー 第8回

町田の名を全国へ、そして世界へ轟かせんとビジョンを掲げ邁進するFC町田ゼルビア。10年以上にわたりクラブを追い続け波瀾万丈の道のりを見届けてきた郡司聡が、その挑戦の記録を紡ぐ。

第8回では、大願を遂げたチームとともに個人としても大きく飛躍した俊英、平河悠の2023シーズンをプレイバックする。

　相手が強力であればあるほど、闘争本能がかき立てられるのだろうか。1月の宮崎キャンプ、鹿島アントラーズとの練習試合でのこと。元日本代表SBの安西幸輝とマッチアップした平河悠は、物怖じするそぶりも見せず、積極果敢に仕掛け続けた。

　1度、2度、3度……。平河は遠慮なく安西をぶっちぎった。本来はマッチアップの回数を重ねれば重ねるほど、相手は間合いをつかむものだろう。それでも、安西が平河のことを止められる気配はなかった。

　あまりにも同じ過ちを繰り返す安西に対して、当時の岩政大樹監督は「だから縦を切れって言っただろう！」とたまらずカミナリを落とした。指揮官からの怒号が効いたのか。その後の鹿島は平河の進撃に対して、数的優位を作る形で自由を奪った。同じ右サイドでプレーしていたチームメイトの奥山政幸は、こう言って目を細めた。

　「悠が1対1で相手に負けるような場面は見ていないですし、神戸との練習試合でも対面の初瀬（亮）選手を相手にしていませんでした。まさに圧倒している状況でした。そうした悠の強みがチームのストロングポイントになると思います」

　その一方で、試合後の当人は浮かない表情をしていた。主力同士の90分ゲームは0-0で終わっているため、ゴールシーンを作り出せなかったことも厳しい自己評価に繋がった。いや、むしろ謙虚な姿勢を好意的に受け止めるべきかもしれない。平河はこう言っていた。……

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Profile

郡司 聡

編集者・ライター。広告代理店、編集プロダクション、エルゴラッソ編集部を経てフリーに。定点観測チームである浦和レッズとFC町田ゼルビアを中心に取材し、『エルゴラッソ』や『サッカーダイジェスト』などに寄稿。町田を中心としたWebマガジン『ゼルビアTimes』の編集長も務める。著書に『不屈のゼルビア』（スクワッド）。マイフェイバリットチームは1995年から96年途中までのベンゲル・グランパス。