“負けないチーム”から“勝つチームへ”。柏レイソルが天皇杯決勝で得た来季のスタンダード
太陽黄焔章 第7回
シーズンの締めくくりはPK戦に敗れての準優勝だった。川崎フロンターレとの天皇杯決勝に挑んだ柏レイソルは勇敢に戦い、攻勢を強める時間も長かったが、あと一歩のところでタイトルには手が届かなかった。だが、苦しい時期も長かった2023年を振り返れば、大きな来季への希望を抱かせる“シーズンラストゲーム”だったことは間違いない。今回もおなじみの鈴木潤がその天皇杯決勝にフォーカスしながら、ここからのレイソルに想いを馳せる。
壮絶なPK戦の末に散った川崎フロンターレとのファイナル
「本来なら、自分があそこに立っていたはずだった」
古賀太陽は悔しさを噛み締めながら、表彰式で歓喜に沸く相手選手を見つめていた。「この悔しい思いを忘れないように」と、彼はあえて勝者の姿を目に焼き付けていた。
柏レイソルと川崎フロンターレが激突した第103回天皇杯決勝。緊迫感の張り詰めた120分間の攻防は両者ともに譲らず、両チーム合わせて総勢20人がキッカーを務めた壮絶なPK戦の末、天皇杯のタイトルは川崎の手に渡った。
川崎は10月以降の公式戦で負けなし、リーグ戦ではラスト2試合を連勝で終えて天皇杯決勝を迎えた。一方の柏は、今季は開幕から下位に低迷し、最終節で辛くもJ1残留を決めた。また、残留に大きく貢献した犬飼智也が、前所属の浦和レッズですでに天皇杯に出場していたため、柏の選手としては同大会の出場権がなく、リーグ最終節の名古屋グランパス戦で退場となったジエゴが天皇杯決勝は出場停止になるなど、主力選手を欠くという状態だった。
近年、数々のタイトルを手中にしている川崎と、10年間もタイトルから遠ざかっている柏。こうした背景を踏まえても、「川崎圧倒的有利」という戦前の予想が下されるのも当然の流れである。
周到な準備が呼び込んだ攻勢のゲーム展開
だが試合が始まると、序盤から攻勢を仕掛けて主導権を握ったのは柏の方だった。
川崎とは、約1カ月前のJ1第31節で対戦したばかり。その試合では、細谷真大と山田康太の2トップが前線からの守備で規制をかけた際に、川崎の中盤を務める橘田健人、脇坂泰斗にボールを入れられ、そこから攻撃を展開されることによって押し込まれる時間帯が増えてしまった。そのリーグ戦で得られた反省材料を教訓に、決勝に向けて柏は周到な準備を積んできた。……
Profile
鈴木 潤
2002年のフリーライター転身後、03年から柏レイソルと国内育成年代の取材を開始。サッカー専門誌を中心に寄稿する傍ら、現在は柏レイソルのオフィシャル刊行物の執筆も手がける。14年には自身の責任編集によるウェブマガジン『柏フットボールジャーナル』を立ち上げ、日々の取材で得た情報を発信中。酒井宏樹選手の著書『リセットする力』(KADOKAWA)編集協力。