予想外の新戦力カイ・ハベルツ。そのインサイドハーフ起用からアーセナルの未来を占う
せこの「アーセナル・レビュー」第6回
ミケル・アルテタ監督の下で一歩ずつ着実に再建を進めているアーセナル。その復活の軌跡をいち“グーナー”(アーセナルサポーターの愛称)でありながら、様々な試合を鋭い視点でわかりやすく振り返っているマッチレビュアーのせこ氏がたどる。
今回はドイツ代表での起用法が話題に上がる中、プレミアリーグ第13節ブレントフォード戦で決勝点を挙げた新戦力カイ・ハベルツのここまでを振り返る。
長く海外サッカーのファンをやっていると移籍市場にも興味が出てくるようになる。噂をもとに「この選手が来たらどうなるか?」「どんな選手が今のチームに必要か?」などの思いを巡らせながらサッカーのないオフシーズンを間埋めするのが趣味という人も少なくないのではないか。
無論、自分もそのうちの1人である。それなりに長く市場を見ているのだから、ちょっとやそっとの噂ではすぐ浮足立つことはない。そのソースが信ぴょう性があるかをチェックする必要がある。もっとも、長く市場を見てきた経験があるのだから大体初見でその情報が本当かどうかは直感でわかる。
「デクラン・ライスにアーセナルは本気!間違いなくこの夏の目玉となる補強候補だ」
「今のガブリエル・マガリャンイスがアーセナルを離れるのは考えにくい。ユベントスからの興味が成就することないだろう」
「カイ・ハベルツの獲得に興味というのは嘘っぱち。今のアーセナルが手を出すことは考えにくい」
この夏に出た噂への自分の第一印象を並べてみた。ご覧の通り、ファンの「長く市場を見てきた経験」とやらはまったくあてにならないわけで、実際にはハベルツはこの夏、アーセナルの門を叩くこととなった。
ハベルツの獲得を直感的にないだろうと感じた理由の1つは、すでにCFのポジションは埋まっていると感じていたからだ。チェルシー時代の主戦場にはすでにガブリエル・ジェズスとエンケティアという主力がいる。188cmという彼ら2人にはない高さをハベルツが持っていることは確かだが、ここを補強するのであればおそらくペナルティエリア内での仕事に特化したタイプだと個人的には思っていた。ハベルツはそうしたターゲットとは少しずれる万能型寄りなため、実現の確率は低いという見立てであった。
しかしながら、この予想はそもそも根本がずれていたようだ。「ミケル・アルテタ監督はハベルツをインサイドハーフ(IH)として考えている」ということは多くのメディアが加入前から報じていた。
[4-3-3]を基本布陣とするアーセナルのIHは、昨季限りで退団したジャカがロールモデルになるだろう。後方に下がってのビルドアップのサポート、サイドにおけるパス交換への顔出し、ボックス内への侵入といった低い位置から高い位置までのあらゆるタスクをこなすことが求められている。特にアタッキングサードにおける得点に絡む能力はジャカに足りない部分と思われていたが、22-23シーズンにはその声を払しょく。リーグ戦7得点とフィニッシャーとしても充分な存在感を放っていた。
前線のイメージが強いハベルツがそのIHをこなす上で、障害になりそうなのは低い位置でのプレーになる。すなわちジャカと逆の部分だ。低い位置でのビルドアップに絡むタスク、または非保持において[4-2-3-1]のトップ下またはボランチを担うことができる強度があるのか?その要素が新天地に適応できるかどうかの第一関門になっていた。
ビルドアップの変化に伴うIHのセカンドストライカー化
ただし、その働きぶりについて話す前に昨シーズンと比較してのIHの役割の変化に触れないといけない。今季は明らかにビルドアップのタスクが減少しているからである。……
Profile
せこ
野球部だった高校時代の2006年、ドイツW杯をきっかけにサッカーにハマる。たまたま目についたアンリがきっかけでそのままアーセナルファンに。その後、川崎フロンターレサポーターの友人の誘いがきっかけで、2012年前後からJリーグも見るように。2018年より趣味でアーセナル、川崎フロンターレを中心にJリーグと欧州サッカーのマッチレビューを書く。サッカーと同じくらい乃木坂46を愛している。