J1を戦い抜いたシーズンの総決算。アルビレックス新潟が横浜で手にした勝ち点1の意味
大白鳥のロンド 第5回
6年ぶりに戦ってきたJ1でのシーズンは、確かな成長を感じるものだった。第33節。横浜F・マリノスと対峙したアルビレックス新潟は、リーグ優勝の懸かった相手と好ゲームを演じ、アウェイの地で勝ち点1をもぎ取る。では、この試合で手にした1ポイントは、果たして彼らにとってどういう価値を持つのか。現地で横浜FM戦を取材した野本桂子がその意味を考察しつつ、残された“最後の1試合”に想いを馳せる。
「民衆の歌」「アイシテルニイガタ」が響き渡る金曜夜の日産スタジアム
暗転したスタジアムが「トリコロールギャラクシー」の光できらめく。しかし対岸に灯る「プラネタスワン」は、オレンジ1色の結束力で魅せる。「民衆の歌」に負けじと、新潟サポーター約4,500人は「アイシテルニイガタ」のチャントを響かせる。金曜の夜にも関わらず、34,335人が詰めかけた日産スタジアムでの一歩も譲らぬ戦いは、キックオフ前から始まっていた。
連覇を狙う昨季王者の猛攻に、集中した守備は途切れなかった。全員が走り、体を張り、最後は日本代表GK小島亨介が壁となった。
明治安田生命J1リーグ第33節。10位のアルビレックス新潟は、敵地で2位・横浜F・マリノスと対戦し、0-0で引き分けた。横浜FMが20本で、新潟が13本。トータル33本のシュートは、90分で割れば約3分に1本の決定機が生まれたことになり、互いにピンチを防ぎ合ったことにもなる。試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、戦い、守り切った新潟のDF陣はピッチにバタバタと倒れ込んだ。ただ、点は生まれなかった。
試合後、松橋力蔵監督は「最後までタフに戦ってくれた、非常にいいゲームだったと思います。自分たちのよさをどれくらい出せたかというと分かりませんけれど、出せない中でもチャンスをしっかりつくれる状況にもあったし、ピンチも最後はしっかり防げたというところで、非常に選手は頑張ってくれたと思います」とねぎらったものの、「難しいなかでもいくつかの決定機がつくれたので、そこをしっかり決めきれれば、というのが今の気持ちです」とも振り返った。
共に、勝点1では足りなかった。横浜FMの優勝可能性も消えたが、新潟が目標としていた1桁順位で終える可能性も今節で消えた。ただ、直近8試合負けなしと、たびたび中断期間を挟む日程の中でも、好調を維持している。J1残留を確定させてから戦った第31節以降も隙を見せることなく、3試合連続完封を続けている。
横浜FM戦は、前節終了後から約2週間空いた。そこに向けて、松橋監督は過剰に煽ることなく、「勝点3を取る上では、同じ重さを持つ大事な試合。ただ彼らは優勝がかかる境遇にいて、僕らはその敵地に乗り込んで戦う。この2週間、その状況を頭の片隅に置いて、1日1回どこかのタイミングで思い浮かべて、生活なりトレーニングをしてほしい」とだけ、選手に意識づけていた。
「勝てたかもしれない」ドロー決着の悔しさ
キックオフから、横浜FMが前から圧力をかけてきたが、それは想定内。「守備は積極的に前に出てくる。そこをひっくり返したとき、有効な時間と空間を使えると思うので『出てこい』というくらいの気持ちでやりたい」(松橋監督)とチームで共有していた。実際、前線からのプレスでビルドアップには苦しんだが、相手にボールを持たれれば焦れずに自陣にブロックを構え、その裏を狙う形で何度かチャンスも生まれた。サイドアタッカーは勢いに乗せないように、藤原奏哉、新井直人が厳しく見張り、抜かれてもボックス内で対応。カウンターを受ければ、全力で戻った選手がカバーに入る。
0-0で折り返した後半は、勝点3を奪いに両者が攻撃のギアを上げ、互いに交代選手を投入してからの終盤は、オープンな展開となった。途中出場の谷口海斗、三戸舜介、長倉幹樹の抜け出しから再三チャンスが生まれるが、最後の精度を欠いて無得点に終わった。
「90分を通して強度を保った中で最後まで全員で戦えたのはポジティブですけど、本当に悔しい。勝ちたかった」とゲーム主将の高宇洋。「何回かあったチャンスを決め切れていれば、3-0、4-0でもおかしくなかったと思います」と藤原奏哉。無失点に抑えただけに、決めれば勝てたチャンスも多かっただけに、悔しさが残った。……
Profile
野本 桂子
新潟生まれ新潟育ち。新潟の魅力を発信する仕事を志し、広告代理店の企画営業、地元情報誌の編集長などを経て、2011年からフリーランス編集者・ライターに。同年からアルビレックス新潟の取材を開始。16年から「エル・ゴラッソ」新潟担当記者を務める。新潟を舞台にしたサッカー小説『サムシングオレンジ』(藤田雅史著/新潟日報社刊/サッカー本大賞2022読者賞受賞)編集担当。24年4月からクラブ公式有料サイト「モバイルアルビレックスZ」にて、週イチコラム「アイノモト」連載中。