ゼルビア・チャレンジング・ストーリー 第6回
町田の名を全国へ、そして世界へ轟かせんとビジョンを掲げ邁進するFC町田ゼルビア。10年以上にわたりクラブを追い続け波瀾万丈の道のりを見届けてきた郡司聡が、その挑戦の記録を紡ぐ。
第6回は、悲願のJ1昇格、そしてリーグ優勝を決めたチームにあって、シーズンを通して熾烈なポジション争いを続けたGKの2人、福井光輝とポープ・ウィリアムの1年間にスポットライトを当てる。
ツエーゲン金沢戦の90+6分、1-0での勝利を告げるホイッスルが鳴り響くと、GKの福井光輝はピッチにひざまずき、両腕を天高く突き上げた。そして視線の先に町田サポーターの歓喜の表情を捉えた守護神は涙腺が崩壊。“男泣き“に暮れた。2023シーズンはJ2優勝でのフィナーレ。シーズンはまだ2試合を残すものの、試合後の福井は「夢が叶った」と笑顔だった。
シーズンの最終盤、町田のゴールマウスを守った福井の心には、いつも「第1GKはポープ(ウィリアム)くん」との気持ちがあった。その胸の内とは。福井が言葉の真意をこう語った。
「シーズンの序盤はポープくんが試合に出ていましたし、ポープくんの活躍がなければチームは4月から首位には立っていなかったでしょう。僕はそんなポープくんを超えないといけない立場ですし、トレーニングから超える勢いでやらないと、GKチーム全体のレベルも上がりません。僕がこうして試合に出させていただいているのも、超えたいというポープくんの存在があるからこそですが、ポープくんよりも僕が良いパフォーマンスを発揮できているとは限りません」
かつて黒田剛監督は、福井もポープも互いに実力が伯仲しているため、「われわれにはレベルの高いGKがそろっている」と胸を張っていた。勝ち切れる強いチームには、必ず優れた守護神が君臨する。サッカー界のそんな通説を、町田の“GKチーム”はJ2優勝という大輪の花として咲かせた。
“ポープが止めてエリキが決める”前半戦
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Profile
郡司 聡
編集者・ライター。広告代理店、編集プロダクション、エルゴラッソ編集部を経てフリーに。定点観測チームである浦和レッズとFC町田ゼルビアを中心に取材し、『エルゴラッソ』や『サッカーダイジェスト』などに寄稿。町田を中心としたWebマガジン『ゼルビアTimes』の編集長も務める。著書に『不屈のゼルビア』(スクワッド)。マイフェイバリットチームは1995年から96年途中までのベンゲル・グランパス。