ある2人の記者の考察。アルビレックス新潟・小島亨介が日本代表に合流した日のこと
大白鳥のロンド 第4回
10月13日。デンカビッグスワンスタジアムで行われる日本代表対カナダ代表の一戦に訪れた地元のファンは、そわそわしながらある選手の登場を期待していたはずだ。その男とは前日に追加招集を受けた、アルビレックス新潟の守護神・小島亨介。結果的に試合にこそ出場しなかったものの、その招集自体がアルビサポーターを大いに沸かせたことは言うまでもない。今回はおなじみの野本桂子に、小島の代表招集が“発覚”するまでの流れと、彼が歩んできた新潟でのキャリアを綴ってもらおう。
爆音の拍手。そして、2人の考察が始まった
爆音の拍手が、2階から降ってきた。
アルビレックス新潟のクラブハウス。9時30分からの練習取材に向けて、ちょっと早めに足を運び、洗面所で手を洗っていたときのことである。
この日はリーグ中断期間中の2連休明け。朝イチのミーティングで、何かが起きている。
廊下に出ると、佐藤広報がウキウキの表情でムービー用のカメラを手に階段を降りてきて、広報室に走り込んでいった。
何かある。それも、いいニュースだ。メディア控室に戻ると、某スポーツ新聞社の渡辺記者も同じことを感じていた。
「なんか、すごい拍手が聞こえたんだけど」。
そこから、現場に居合わせたわれわれ2人の考察が始まる。
「練習生が来てあいさつするときは、もっと拍手の音が違うよね」
「新加入も、もうない時期だよね」
「誰か結婚した? 子どもが生まれそうな選手いたっけ?」
通常、拍手が起こるのは、大体上記の3パターンである。
考察は進む。少しずつ正解に近付いていく
「……コジくん(小島亨介)が、代表に選ばれたとか?」
翌日、デンカビッグスワンスタジアムでは、国際親善試合の日本代表対カナダ代表戦が行われる。可能性は、十分ある。
練習場のピッチサイドに歩いていくと、選手たちの中に、確かに練習生はいた。でも、おなじみの新潟U-18の選手たちである。
変化といえば、新潟U-18のGK内山翔太が久々にいる。
そして、小島の姿は、ない。
練習前の円陣で、松橋監督が選手に話をする声が、風に乗ってもれ聞こえてくる。
「いつ、何が起きるかなんて分からない」「人って、結構見ているんだよ」
むむむ。
そして、練習が始まる。いつものオフ明けなら、ウォーミングアップで少し笑顔も見られるものの、この日はみんなの顔がピリッとしていた。
何より、キーパー練習で響く阿部航斗の声がいつも以上に激しく、顔は険しかったのだ。
これはもう、ビンゴだろう。
……
Profile
野本 桂子
新潟生まれ新潟育ち。新潟の魅力を発信する仕事を志し、広告代理店の企画営業、地元情報誌の編集長などを経て、2011年からフリーランス編集者・ライターに。同年からアルビレックス新潟の取材を開始。16年から「エル・ゴラッソ」新潟担当記者を務める。新潟を舞台にしたサッカー小説『サムシングオレンジ』(藤田雅史著/新潟日報社刊/サッカー本大賞2022読者賞受賞)編集担当。24年4月からクラブ公式有料サイト「モバイルアルビレックスZ」にて、週イチコラム「アイノモト」連載中。