確立したスタイルへの自信が呼び込んだ準決勝の快勝劇。柏レイソルは11年ぶりとなる天皇杯制覇に堂々王手!
太陽黄焔章 第5回
どこか自信のなさそうな空気が漂っていた前半戦のチームとは、明らかに違う。整理された守備戦術。自主性と積極性が結果を呼び込む攻撃の好循環。その勢いを如実に表出させたロアッソ熊本との天皇杯準決勝を、4-0という快勝劇で潜り抜けた柏レイソルは、いよいよ11年ぶりとなる天皇杯制覇へ王手を懸けた。今回はレイソルがその準決勝をいかにプランニングして、いかに戦い切ったかを、おなじみの鈴木潤が解き明かす。
J1にはない[3-3-1-3]というシステムとの対峙
試合開始から9分、柏レイソルは中盤左サイドの狭いゾーンにロアッソ熊本を追い込んだ。ジエゴと山田康太が島村拓弥を挟み込んだが、ボールを奪い取れず、上村周平が島村からパスを受けた。すると、立て続けに背後から細谷真大が上村に襲いかかる。ルーズボールを拾った戸嶋祥郎は、縦に抜け出した細谷へワンタッチパス。瞬時の切り替えで熊本を上回った柏のショートカウンターが発動し、細谷のクロスから戸嶋がヘディングシュートを突き刺した。
熊本は、サガン鳥栖、FC東京、ヴィッセル神戸と、J1チームを撃破して準決勝まで勝ち上がってきていた。その勢いもさることながら、J1チームにはない[3-3-1-3]というシステムと、大木武監督の志向する攻撃的なスタイルも含めて「心の隙は一切なしに、いつものJ1のリーグ戦と同じ捉え方をして戦わなければいけない」と、試合前の取材でも井原正巳監督は熊本への警戒心を強めていた。
そして、強度の高いプレッシングで試合開始直後から熊本に圧力をかけた柏は、その立ち上がりの勢いのまま、幸先よく先制点を奪った。
ただ、3回戦の鳥栖戦では、熊本は2点のビハインドを跳ね除け、逆転勝利を収めている。
「少しでも隙を見せたらやられると思っていた」(戸嶋)
立ち上がりの先制点にも気を緩めることなく、その後もプランを遂行していく。
2トップが入れた守備のスイッチとダブルボランチの高い戦術遂行力
柏が特に警戒していたのは、[3-3-1-3]という熊本の特殊なシステムによるビルドアップである。彼らの前進を防ぐため、中盤で起点となる上村と平川怜、そしてインサイドに入ってビルドアップに加わるウイングバックをいかにして抑えるかがカギとなった。
J1のリーグ戦同様に、細谷と山田の2トップが規制をかけながら守備のスイッチを入れた。アグレッシブに、強度高く奪いにいくだけではない。そこでは山田の個人戦術が光った。……
Profile
鈴木 潤
2002年のフリーライター転身後、03年から柏レイソルと国内育成年代の取材を開始。サッカー専門誌を中心に寄稿する傍ら、現在は柏レイソルのオフィシャル刊行物の執筆も手がける。14年には自身の責任編集によるウェブマガジン『柏フットボールジャーナル』を立ち上げ、日々の取材で得た情報を発信中。酒井宏樹選手の著書『リセットする力』(KADOKAWA)編集協力。