ユアスタに齋藤学と長澤和輝がいる2023年、仙台の秋
ベガルタ・ピッチサイドリポート第6回
この夏。ベガルタ仙台には2人の日本代表経験者が相次いで加入した。1人は齋藤学。もう1人は長澤和輝。海外でも経験を積み重ね、30代に入って円熟味を増しつつある実力者が加わったことが、ベガルタの選手たちに与える影響は計り知れないものがあるはずだ。今回はそんな彼らの“いまの言葉”を、おなじみの村林いづみに届けてもらおう。
トンボが練習場に舞い始めた。暑い暑い夏が終わり、泉サッカー場には待ちに待った秋が訪れた。いや、おかしいな。寒いよ。すでに朝晩は寒い。気温の高低差に耳がキーンとする。猛暑から心地よい秋を一瞬でスルーして、もう冬の入り口へ。自然は容赦ないなと鼻をすする。
容赦ないと言えば、魔境・J2リーグだ。ベガルタ仙台は開幕時に予想していなかった順位で夏を終えた。こんなはずでは……。たらればを言っても仕方がない。順位や勝ち点という現実を受け止めて日々に向き合う。それもまた、サッカーである。
実はシーズン序盤には、予想だにしていなかったことがもう一つ。“あの”、齋藤学選手と、長澤和輝選手が、ベガルタゴールドのユニフォームを着て、ユアテックスタジアム仙台でプレーしていることだ。7月末から8月上旬にかけ、二人の電撃加入は2日連続で発表された。練習場でその姿を目撃し、つい声が出てしまった。「えっ?なんで?」。J1時代には何度も苦しめられた彼らがそこにいた。仙台で過ごしてきた2ヶ月、彼らにとってはどのような時間だったのだろう。
ペタペタ言わせながら、じゃんじゃん言っている齋藤学という男
ある日の練習終わり。ほとんどの選手がシャワーも浴び終え、昼食を取り始める時間に、遠くから“ペタペタ”歩いてきた選手がいた。齊藤学選手である。トレーニング後の日課、芝の上を裸足でランニングしてクラブハウスに引き上げてきた。足元を見ると、つま先のない靴下一枚。シューズは履かず、練習場から200メートルほどアスファルトの道を歩いてきた。靴下の先を余らせて、それがペタペタと音を立てていた。「えっ?なんで?」。つい声が出てしまったが、齋藤選手は矢継ぎ早に説明をした。
「走ったじゃん。裸足で履いてシューズの内側に芝をつけたくないじゃん。今から5本指ソックスを履くのは面倒くさいじゃん。でも足の裏は守りたいじゃん。ケガしたくないじゃん。これ(ソックスをずり下げて、つま先まで)伸ばすじゃん。そういうこと!」
何だ、この人?ペタペタ言わせながら、じゃんじゃん言っている。おもしろ……。言いたいことだけ言って、いたずらっ子のように記者たちの反応を満足の表情で見て、クラブハウスに入っていった。雑談大好き。誰とでもすぐに打ち解ける。月末には冗談で「はい、今月はもういっぱいしゃべったから終わり!」と取材を打ち切る素振りを見せながら、結局ちゃんと話を聞かせてくれる。ピッチ上の華麗なプレーは健在だが、「齋藤学ってこんな人だったか」といろいろな意味で驚かされている。やはり直接話してみないとわからないことだらけだ。
結果が出なかったり……、出なかったり。練習参加から始まった齋藤学の仙台での日々
――仙台に加入して、2ヶ月が経ちましたね。
齋藤「早いですね。もうそんなに経ったかと思いました。最初は練習生として、練習試合に入ったところから始まって、オファーを正式にもらってから入団しました。ほぼ毎週試合があって、試合に絡ませてもらって。結果が出なかったり……、出なかったりでしたね。一喜一憂しやすい2ヶ月を過ごしていますけど、それでもその時その時の課題に向かって過ごせている。充実した日々だと思います」
――「結果が出なかった」が二つ積み重なりました。チームとして、もう少し結果は出るかなという感覚がありましたか?
齋藤「2連勝した時は良かったですけどね。ちょっと重心が守備的な感じがあって、では自分はどこでどうやって点を取るのかというところでイメージが湧きづらかった部分はあるかな。自分のところに決定的チャンスが落ちてくるとか、そういうシーンを作れるという以前のゲームが多かった印象です。それよりは失点しない方に立ち位置を取ろうと考えていました。
求められているのは、より前での活躍ですが、チームが勝つためとか、勝ち点を取るために何をしなきゃいけないかを考えた時に、自分が点を取るためのポジションを取るよりは、まずはチームとして守備をしっかり整えること。そこのバランスが取れていたから、変に大崩れすることもなくなってきたかなと思います。
チーム全員でそういう風になってきています。個人的に点を取れていないというところで、もっと自分で仕掛けるとか、パフォーマンスを上げていけば良いだけなので、残り試合でトライしていけばいいですけど。でもその分、守備をおろそかにするわけにはいかない。何を優先するかと言えば、今はチームの成績なので、ゴールを取れていないということは気にしていないです」
――チームと個人、そこのバランスは難しいものがありますね。勝たなきゃいけないと考えるとより一層難しいです。
齋藤「うん。守備の立ち位置で考えると、FWやサイドハーフ、どこのポジションでもそうなんですけど、チームとしてまとまれる立ち位置、相手にとって嫌な立ち位置を取れるかということはすごく考えます。去年のマリノスや優勝していた時のフロンターレのように、結構前からはめていくことができれば、前でボールを取れるのでゴールの近くから攻撃が始められる。それをやることで、自分たちの広大な陣地を空けてしまうというリスクもある。そうなるとすごく足の速いCBが必要で、そういう選手がいることがその戦術を使える条件になる。……
Profile
村林 いづみ
フリーアナウンサー、ライター。2007年よりスカパー!やDAZNでベガルタ仙台を中心に試合中継のピッチリポーターを務める。ベガルタ仙台の節目にはだいたいピッチサイドで涙ぐみ、祝杯と勝利のヒーローインタビューを何よりも楽しみに生きる。かつてスカパー!で好評を博した「ベガッ太さんとの夫婦漫才」をどこかで復活させたいと画策している。