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下平トリニータ2年目、新たなチャレンジの中で「伸びたもの」と「育たなかったもの」

2023.10.12

トリニータ流離譚 第6回

片野坂知宏監督の下でJ3からJ2、そしてJ1へと昇格し、そこで課題を突きつけられ、現在は下平隆宏監督とともにJ2で奮闘する――漂泊しながら試練を克服して成長していく大分トリニータのリアルな姿を、ひぐらしひなつが綴る。第6回は、シーズン最終盤を前に下平トリニータ2年目のチャレンジの中で得られた成果について振り返りたい。

10人の東京V戦で示した意地と限界

 「このままではシーズンを終われない」

 そう言って臨んだJ2第38節、アウェイの東京V戦。国内のあちこちから駆けつけた大分トリニータのサポーターたちもチームと思いを同じくしてキックオフを迎えたはずだ。シーズン折り返し後、急激に勝ち点を積むペースを落とし、前半戦には自動昇格圏を維持していたチームは今、J1昇格プレーオフ圏さえ崖っぷちという順位にいる。

 試合の入りは素晴らしかった。攻守に前への意識を押し出してアグレッシブに勢いを増すと、高い位置でボールを奪っては素早くゴールへと向かい、複数の決定機を生み出した。大分がポゼッションして攻め込んだ後には東京Vがボールを動かして相手陣への流れを作るといった具合に好ゲームになりそうな立ち上がりだったのだが、その攻め合いの中で飛び出した相手のゴラッソにより、均衡は意外に早く16分に崩れた。優勢に進めていた中での失点だったが時間はまだたっぷりあり、追撃へと気持ちを整えた矢先の18分、さらなる悲劇がチームを襲う。デルランへと横パスを送ろうとしたペレイラの足に、激しく寄せてきた染野唯月がかかって転倒。清水修平主審はこのプレーをDOGSOと判定し、ペレイラにレッドカードを提示した。

J2第38節、東京ヴェルディ対大分トリニータのハイライト動画

 下平隆宏監督はただちにリカバーを指示。不幸中の幸いだったのは、ダブルボランチの一角を羽田健人が務めていたことだ。もともとはCBを本職とするプレーヤーで、片野坂知宏前監督時代にコンバートされていた。今季は第17節にボランチで出場した以外は最終ラインで起用されることが多かったが、第33節からはボランチで先発出場を継続。その羽田がペレイラの抜けたところへ落ちて4バックの陣形を維持しつつ、本職の本領を発揮して守備を統率したことで、指揮官に交代カードを切らせることなく戦いを続けることができた。

 羽田が下がったボランチの位置にはトップ下の渡邉新太が1列下がって埋めることになった。生粋のストライカーにとってはこれまで[4-3-3]のインテリオールとして守備時に可変して下がった位置を取ることはあったが、ボランチとしてプレーするのは生まれて初めて。前節・大宮戦が累積警告により出場停止だっただけに、今節こそはゴールへと向かう強度の高いプレーでチームに貢献をと意気込んで臨んだものだったが、中盤の底から見るゴールはやはり遠かった。「それでも勝ちたいからやるだけだった」と渡邉は試合後に明かした。この試合ではポケットを取ってくる東京Vへの対応がポイントの1つで、ボランチがその対応をすることになっていた。渡邉は激しく球際に寄せてその役割もこなしつつ、攻撃では前に出て得点機に絡む姿勢を貫く。ボランチ的な守備戦術は渡邉の中にはなかったが、そこは後ろの羽田が「新太は全部球際に行くから大変だった」と苦笑いしつつカバーリングに奔走し、ボランチの相方である弓場将輝も持ち前の豊富な運動量でそれを補った。……

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Profile

ひぐらしひなつ

大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg

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