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酷暑の仙台で“最高の自分”を更新した、蜂須賀孝治の三人四脚

2023.09.29

ベガルタ・ピッチサイドリポート第5回

例年以上に堪える暑さに見舞われた、今夏の日本列島。だが、杜の都ではある33歳の男が「現役・ベストコンディション」を発揮していた。ベガルタ仙台でプレーする蜂須賀孝治がその人。後輩も含めた周囲の意見を取り入れられる柔軟性と、理解ある2人の“パートナー”の献身も相まって、この酷暑の中で“最高の自分”を更新したというのだ。今回は「チーム蜂須賀」のメンバー、蜂須賀の奥様と管理栄養士の山田大進さんの言葉を交えて、おなじみの村林いづみが三人四脚で乗り切った蜂須賀のこの夏を総括する。

 チーム立ち上げ日の1月10日には吹雪に見舞われた“雪国”の仙台も、この夏の猛暑を免れることはできなかった。最高気温は36.8℃。他の地域に比べれば幾分マシだったろうか?それでも東北人には堪える暑さだった。ベガルタ仙台の練習場には、“かけ水”用のコンテナが用意され、練習の合間に選手たちが頭から柄杓で氷水をかぶった。例年お盆も過ぎれば、朝晩の風が涼しくなるが、今年は一向にその気配がなかった。

 仙台の夏を何度も経験する梁勇基選手が「今年の暑さは異常でしょ?」とつぶやけば、若狭大志選手は「掌を冷やすと良いらしいですよ」と氷を手にして豆知識を披露。誰もが「夏、早く終われ!」と思っていた記録的な暑さの中でコツコツと「現役・ベストコンディション」を発揮した男がいた。仙台一筋11年目を迎えた蜂須賀孝治選手である。プロ生活で幾度もひざの大けがに見舞われ立ち上がってきた33歳。どうして彼は灼熱の太陽の下で「最高の自分」を示すことができたのだろうか?

強さの秘密は、スタミナ抜群の“ニョロニョロした生き物たち”

――11試合勝ちなしという苦しい夏場、大宮アルディージャ戦で先発出場しました。そこから連勝もありましたが、今年は蜂須賀選手にとってどのような夏でしたか?

 「試合に使ってもらって、だんだんと90分のペース配分や試合勘が、試合ごとに積み上げられている実感があります。夏場でチャンスをもらいましたが、連戦ではないので調整はしやすいです。僕が試合に出るようになる前に、ピッチを見ていて思ったのが、(鎌田)大夢の運動量がすごいなということでした。気になったので『お前、何食べてるの?』と聞いたら、『試合前日にいつも鰻を食べています』って言っていたんです。確かに鰻だな!と思って」

――もう、これは鰻しかないと思ったんですね(笑)。

 「はい(笑)。コンディションのため、食べるもので差をつけるということもできるよなって。少し高いですが、そういうものを摂ることで動けたり、相手をちょっと上回れるんだったら、食べるべきだなって思いました。若いのに、大夢はそういうところを意識しているんですよね。即、実践しました」

――後輩の良い取り組みを実践できるというのも、蜂須賀選手ならではの柔軟性ですね。

 「そうですかね。たわいもない話からそういうことを聞いて、今では鰻屋さんでテイクアウトして家で食べています。お店の方にも覚えてもらって、『いつものでいいですか?』って感じになってきました。ホームゲームなら前日、アウェーなら前々日に食べて試合に向かうようにしています」

「ベガルタ仙台と結婚した男」と結婚した奥様の7年間

 「食べることもトレーニングの一つ」と言われるほど、アスリートにとって、何を、どのように食べるか、日々の栄養管理は重要な要素を占めている。蜂須賀選手が、試合のタイミングでベストコンディションを発揮するために力を合わせた存在がいた。毎日食事を用意してくれる蜂須賀選手の奥様、そしてベガルタ仙台ユースの管理栄養士を務め、蜂須賀選手個人にも栄養指導を行う山田大進さんである。「二人の存在無くして、サッカーはできない」と蜂須賀選手も最高のサポートへ感謝を惜しまない。

管理栄養士の山田大進さん(Photo: Idumi Murabayashi)

 2016年に結婚した蜂須賀ご夫妻。2018年には、第一子・長男も誕生した。サッカースクールに通う5歳の愛息子はサッカー選手である父を心から応援するサポーターとなった。大学時代も過ごした仙台の地で、家族3人(愛犬も含め3人と1匹で)力を合わせ、選手生活を送っている。蜂須賀選手は以前、取材の中で「僕はベガルタ仙台と結婚したと思っている」と回答したことがある。「ベガルタと結婚した男」というパワーワードは、一時、蜂須賀選手の代名詞となった(とか、そうでないとか)。

 「ベガルタと結婚した男、実はそういうことは以前から家でもよく言っているんですよ。一夫多妻制なのかな?」。キラキラした目で、よく笑う素敵な奥様である(今回、ご家族の意向でお名前は非公開。「奥様」とご紹介していきます)。「ベガルタ仙台は大きな家族、という意味だと思います。夫にとってベガルタが家族なら、私にとっても大切な家族です」。

 「サッカー選手の妻」とは、覚悟の求められる立場なのだろうなと想像している。シビアな戦いの場に向かう家族を様々な面から支えることには、想像を超える苦労がありそうだ。「実は栄養管理や食事を用意するということはそんなに大変とは思っていないです。職業に関係なく誰もがやっていることですし、もっと大変なことをしている方もいると思います」。蜂須賀選手の奥様が目を向けているのは、全く別のところだった。

奥様の手料理(写真は蜂須賀選手の奥様ご提供)

……

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Profile

村林 いづみ

フリーアナウンサー、ライター。2007年よりスカパー!やDAZNでベガルタ仙台を中心に試合中継のピッチリポーターを務める。ベガルタ仙台の節目にはだいたいピッチサイドで涙ぐみ、祝杯と勝利のヒーローインタビューを何よりも楽しみに生きる。かつてスカパー!で好評を博した「ベガッ太さんとの夫婦漫才」をどこかで復活させたいと画策している。

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