明確な結果で上り詰めてきたJ1の舞台。アルビレックス新潟・太田修介はさらなる飛躍を期す
大白鳥のロンド 第3回
上々のスタートだった。初挑戦となるJ1のデビュー戦で圧巻の1ゴール1アシスト。以降も序盤戦は得点を重ねたものの、そこからは度重なるケガで復帰と離脱を繰り返す。それでも、ピッチの外から改めてチームを見つめることで、新たな視点も得たいま、残された試合にかける思いは誰よりも強い。今季からアルビレックス新潟へと加入した太田修介。27歳。気持ちをプレーに乗せられる爽快なアタッカーの横顔を、おなじみの野本桂子に紹介してもらおう。
1カ月ぶりの復活弾でフロンターレ撃破の立役者に!
太田修介が、約1カ月ぶりの復活弾で今季初の連勝をもたらした。
復帰2戦目となったJ1第29節・川崎フロンターレ戦。2-1でリードしていた73分に途中出場したが、その3分後、チームはPKから同点に追いつかれてしまう。
「勝っているときに入ったんですけど、監督から『守備の時間が長くなるかもしれないけれど、ひと差ししてくれ』という話もあった。追いつかれたので『自分が決める』という気持ちは強かった」
すると80分、そのときは訪れた。敵陣左サイドで星雄次からパスを受けると、ドリブルで中に切り込んで、目の前のDFをかわす。「マイナス気味に切り返したので、 相手のカバーも来られないと思った。ゴールを見ずに感覚で打ちました」。体制を崩しながらも振り抜いた右足のシュートが、豪快にネットを揺らす。3-2。これが、チームの決勝点となり、そして、チームは今季初となる連勝を飾った。
試合後の会見で、松橋力蔵監督は「あのワンチャンスを決めるという決定力。われわれのチームでは多くの点をとっている選手の1人ですので、彼の持っている決定力をしっかり発揮して、このゲームをものにしてくれたことは非常に大きいと思います」と起用に応える活躍にうなずいた。
「自分は結果を出して、ここまで上り詰めてきている」
今季はけがで3度、離脱をした。そこから帰ってくるたび、復帰2戦以内に結果を残してきた。
最初のけが(詳細非公表)から、約1カ月ぶりに実戦復帰したのは5月24日のYBCルヴァン杯第5節・アビスパ福岡戦。「久しぶりの試合だったし、ここからどれだけ自分がチームに貢献できるかというところを証明しなきゃいけないと思っていた」という太田は開始4分、スルーパスに抜け出して相手の背後を取り、グスタボ・ネスカウの来日初ゴールをアシストした。しかし喜びも束の間、試合中に相手と接触。右膝を傷めて離脱することになる。
2度目の復活は7月。出場2戦目となった7月12日の天皇杯3回戦・カターレ富山戦で、ゴール前に抜け出し2ゴールを挙げた。雷雨でたびたび試合が中断される難しい状況の中、4-3でのトーナメント勝ち上がりに貢献した。「自分は結果を出して、ここまで上り詰めてきている。これからも結果を出して、さらに上り詰めていきたいと思っているので、まったく満足していない」と、痛む右膝を抱えながらもさらなるゴールに燃えていた。
しかし8月5日、3度目の離脱を余儀なくされる。国立競技場で行われた第22節・名古屋グランパス戦で、相手選手との接触により、右膝内側側副靭帯を損傷。全治4週間とクラブから発表された。前回、右膝を負傷した際は、痛みと付き合いながらも続けていく道を選んだ。しかし再び同じ膝を負傷した太田は、メディカルチームの提案でPRP療法を行うことになった。
「自分の血をとって遠心分離機にかけて、そこから血小板を取り出して濃縮したものを膝に注射する方法なんですけど、それがめちゃくちゃ痛かった。最初は膝が曲がらなくなるくらい腫れて大変でしたけど、それが引いたら一気に治りが早くなって。まだ炎症はあるんですけど、MRIを撮ったら靱帯も太くなっていました。クラブがお金を出してくれて治療できましたし、メディカルにも感謝しています」
それから約1カ月半を経て迎えた9月23日。復帰戦となった横浜FC戦では、2-1と新潟がリードしていた66分、長倉幹樹と共に途中出場。[4-2-3-1]の右サイドハーフに立った。74分、長谷川巧が投入されて右サイドハーフに入ると、左サイドハーフへ移動。83分には長谷川からのパスを受けてミドルシュートを放ったが、惜しくも復活弾とはならなかった。
久々の実戦。「たかぶることも、緊張することもなく、とにかく集中していた」。この日はチームの状況を冷静に見極めながら「自分がやるべきこと」を考えてプレーした。
「僕以外にも、(長倉)幹樹や(長谷川)巧と、前に推進力のある選手がそろっていたので、僕だけが引っ張らなくてもいいという感覚もありました。みんな疲弊していましたし、相手は幅を使いながら攻撃してきたので、スライドしきれないとやられるなあと。後ろのゴメスくん(堀米悠斗)の様子も見ながら、ときには自分も最終ラインに入っていました」
その意識が実ったのが90分。相手に押し込まれる中、自陣ペナルティエリア付近で堀米が奪ったボールを受け取った太田は、左サイドでパス交換しながら相手陣内へ前進。逆サイドの味方が上がる時間をつくり、ボランチで途中出場した新井直人にボールを託す。そこからの流れで、勝負を決定づける高宇洋のゴラッソが生まれた。アディショナルタイムには体を張って相手の突破を阻止し、アルビレックス新潟にとって4試合ぶりの勝利に貢献した。
試合後、歓喜に沸き上がるスタジアム内を一周しているときに、メインスタンドで笑っている妻と娘を見つけた。「あ、戻ってこられたんだなって」。そこでようやく、じんわりと、喜びを噛み締めた。
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Profile
野本 桂子
新潟生まれ新潟育ち。新潟の魅力を発信する仕事を志し、広告代理店の企画営業、地元情報誌の編集長などを経て、2011年からフリーランス編集者・ライターに。同年からアルビレックス新潟の取材を開始。16年から「エル・ゴラッソ」新潟担当記者を務める。新潟を舞台にしたサッカー小説『サムシングオレンジ』(藤田雅史著/新潟日報社刊/サッカー本大賞2022読者賞受賞)編集担当。24年4月からクラブ公式有料サイト「モバイルアルビレックスZ」にて、週イチコラム「アイノモト」連載中。