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ワンサイドカットプレスをめぐる戦術的攻防の果てに。ノースロンドンダービーで浮かび上がったアーセナルの課題

2023.09.27

せこの「アーセナル・レビュー」第4回

ミケル・アルテタ監督の下で一歩ずつ着実に再建を進めているアーセナル。その復活の軌跡をいち“グーナー”(アーセナルサポーターの愛称)でありながら、各国リーグ戦から代表戦まで様々な試合を鋭い視点でわかりやすく振り返っているマッチレビュアーのせこ氏がたどる。第4回では、本拠エミレーツスタジアムで宿敵トッテナムを迎え撃ったノースロンドンダービーからアーセナルの課題を洗い出す。

アーセナルが仕掛けたワンサイドカットプレスの仕組み

 第5節を終えた時点での成績はともに4勝1分。リーグ戦無敗同士でぶつかるノースロンドンダービーが前回行われたのは1990年のこと。つまり、プレミアリーグでは初めて無敗で両雄が激突することとなる。両チームのファンにとっては非常に高いテンションと期待感で迎えた試合といえるだろう。

 2023-24シーズンのリーグ戦においては前線からのプレッシングで試合を動かすことはそこまで多くなかったアーセナル。だが、このダービーではハイプレスでトッテナムに勝負を仕掛ける立ち上がりとなった。

 アーセナルのプレッシングはGKに横からプレッシャーをかけて、片方のサイドに追いやるところからスタート。ヴィカーリオにプレスをかける役割は右足側のエンケティアと左足側のウーデゴールの2人が担当していたが、頻度が多かったのは圧倒的にウーデゴール。つまり、アーセナルはトッテナムの右サイド側にボールを誘導していく狙いがあった。

 そのため、前半のテーマは「アーセナルが仕掛けたワンサイドカットのプレスにトッテナムがいかに対抗するか?」だった。サイドから脱出できればトッテナムは一気に優位に立てる。やや偶発的でありながらマディソンが中央の高い位置でボールをフリーで受けることができていた2分のシーンのように、外から抜け出して真ん中でキーマンがボールを持つ形を作れれば、アーセナルのバックラインは望まない後退を強いられることになる。

 だが、立ち上がりはアーセナルが優勢を保つ。先に述べた通り、そのプレスはウーデゴールがヴィカーリオの左足側でパスコースを切りながらプレスをかけることで、トッテナムの右サイドにボールを閉じ込めるところからスタートする。よって、まずはそのエリアに話を絞って盤面を整理していきたい。

 トッテナムの右サイドにおけるビルドアップは、立ち位置がおおよそ決まっている選手と自在に動く選手がいる。固定されているのはロメロ(右サイドのペナルティエリア脇)、ビスマ(右サイドのペナルティエリア角付近)、サール(ロメロの前方)の3人。これに対してマディソンとポロは自在に動きながら降りて絡んでくるか、高い位置を維持する。

 アーセナルがまず抑えたのは立ち位置が決まっている選手。具体的にはロメロをエンケティアが、ビスマをヴィエイラが見る。この2人にプレスで加わるのがジェズスとライスだ。基本的には前者がポロ、後者がマディソンを見るのだが、彼らはマーカーを監視するだけでなく前方のプレス隊がもらしそうになったところのチェイシングを遂行する役割も果たしている。これにより多少プレスがずれても中盤より手前で回収する仕組みが成立していた。

 特にジェズスの守備におけるスキルは圧巻だった。ポロとサールは前後関係が変わるなど、非常に受け渡しが面倒だが、ガブリエウやジンチェンコと連携してそうした後方の受け渡しを難なくやってのけつつ、プレスで前への矢印を出して相手のロストを誘う動きを両立しており、トッテナムのビルドアップ隊を終始苦しめていた。

 強引な追い回しで入れ替わられるミスはほぼなし。ジェズスの左サイド起用はマルティネッリ、トロサールといった左ウイングの主力が次々と離脱したチーム事情に伴う措置かもしれないが、こと守備におけるこの役割を託すのであれば一番の適任者だろう。シュート精度でケチがつくのがもったいないところだ。

ポロとボールを争うジェズス

 ウーデゴールの追い込みをトリガーとしてエンケティアとヴィエイラが定点を抑え、それにジェズスとライスがハントする形で加わるというメカニズムは非常に効果的。ケインがいないトッテナムは前方の長いボールに逃げることもできず、ショートパスを繋ぐトライをしては跳ね返されるという流れを繰り返すことになる。……

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Profile

せこ

野球部だった高校時代の2006年、ドイツW杯をきっかけにサッカーにハマる。たまたま目についたアンリがきっかけでそのままアーセナルファンに。その後、川崎フロンターレサポーターの友人の誘いがきっかけで、2012年前後からJリーグも見るように。2018年より趣味でアーセナル、川崎フロンターレを中心にJリーグと欧州サッカーのマッチレビューを書く。サッカーと同じくらい乃木坂46を愛している。

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