現代サッカーのトレンドから逆算?下平トリニータのボトムアップ型のチーム作りをめぐる葛藤
トリニータ流離譚 第5回
片野坂知宏監督の下でJ3からJ2、そしてJ1へと昇格し、そこで課題を突きつけられ、現在は下平隆宏監督とともにJ2で奮闘する――漂泊しながら試練を克服して成長していく大分トリニータのリアルな姿を、ひぐらしひなつが綴る。第5回は、「共創」というキーワードを掲げボトムアップ型のチーム作りを進めた今シーズンの試行錯誤、夏からエコロジカル・アプローチを導入した経緯をレポートする。
定まらない守護神、CB、ボランチ…
シーズン折り返し後は2勝5分7敗で、わずか11しか勝ち点を積めていない。12勝4分5敗とまずまずの戦績で終えた前半戦の貯金のおかげでぎりぎりボトムハーフには落ちていないが、一時は自動昇格圏を維持していたのが嘘のように、現在は11位にまで後退した。
まず失点の多さが目につく。後半戦のクリーンシートは第30節・藤枝戦のわずか1試合のみだ。5月以降、グロインペイン症候群を発症してリハビリ生活を送っていたGK高木駿が復帰し、9試合ぶりに零封した試合だった。GKとしては決して体躯に恵まれているわけではなくシュートストップ能力も格別高いとは言えない高木だが、足下の技術と駆け引きの妙、豊富な経験に裏打ちされた強靭なメンタルを生かしてボールポゼッションを得意とする。それにより向かってくる相手の矢印を折るとともに相手の攻撃時間を削って、試合運びを有利な方へと導くことができていた。
後半戦に入って一気に失速した中で、高木の復帰は間違いなく今後の浮上への契機となるはずだったが、その高木が藤枝戦後にまさかの電撃移籍。あとには高木の負傷中にゴールマウスを守ってきた高卒3年目の西川幸之介、そして今季加入のテイシェイラと新井栄聡の3人の守護神が残された。
ブラジル生まれの守護神テイシェイラは長身を生かしたシュートストップ能力を期待されていたが、日本の環境に慣れるまでに時間を要し、加入直後から負傷を繰り返す。ようやくコンディションが上向いてきた6月、天皇杯2回戦のV大分戦に初先発予定だったが、試合前日に負傷離脱した。その後も負傷が続き、初出場を果たしたのは第33節の長崎戦。結果は2-2のドローだったが、ゴールマウスを守る姿には安定感があり、ここからフィットしていけば正守護神に定着する可能性もあるかに思われた。
だが、その期待は早くも次の第34節・甲府戦で頓挫する。前半に2点を先行したものの後半から相手の猛追に遭い1点差に迫られていた67分、テイシェイラがピッチに倒れ込んで交代を直訴。負傷ではなく足をつらせただけだったが、ベンチは想定外の選手交代を強いられ慌ただしく対応することになり、その後に2失点してあえなく不甲斐ない逆転負けを喫した。コンディション不足のGKのために交代枠を1枚使う覚悟で起用するか否か、コーチ陣は頭を抱えた。……
Profile
ひぐらしひなつ
大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg