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欧州移籍するならJ2が狙い目?「MCO×サウジ」の波及効果はJリーグも直撃する

2023.08.22

喫茶店バル・フットボリスタ ~店主とゲストの本音トーク~

毎号ワンテーマを掘り下げる月刊フットボリスタ。実は編集者の知りたいことを作りながら学んでいるという面もあるんです。そこで得たことをゲストと一緒に語り合うのが、喫茶店バル・フットボリスタ。お茶でも飲みながらざっくばらんに、時にシリアスに本音トーク。

今回のテーマは「MCOが変革する移籍戦略11の論点」。今の移籍市場で起こっている大変革は、Jリーグにも直接的に波及していく。今後数年で日本人新卒選手の進路選択は大きく変わっていくことになるのかもしれない。

※無料公開期間は終了しました。

今回のお題:フットボリスタ2023年9月号
「MCOが変革する移籍戦略11の論点」

店主 :浅野賀一(フットボリスタ編集長)
ゲスト:川端暁彦

バル・フットボリスタが書籍化!

「MCO×サウジ」が巻き起こす、移籍市場の大変革

川端「どうもマスター。今回は短めのインターバルでバルに来ましたよ」

浅野「そんなに短くはないでしょ(笑)」

川端「先日発売された最新号のテーマですが、『サウジ』って理解でいいですか?」

浅野「そうだね、正確に言えば『サウジとMCO』ということになるのかな。『MCO』はマルチ(M)・クラブ(C)・オーナーシップ(O)の略で、『複数クラブ保有』ということですね。シティ・フットボール・グループ(CFG)、レッドブル・グルーブなどが代表例となります」

川端「今回は特集の論点①が『サウジアラビアで何が起こってるのか』ですし、MCOとの絡みも出てくるという見立てですよね」

浅野「サウジがMCOとどう絡むのかは未知数な部分も大きいです。ただ、ニューカッスルを所有しているパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)がサウジリーグの主要4クラブのオーナーですからね。これもすごい話ですが(笑)。もともとヨーロッパサッカー界はMCOが急増していて、それが移籍戦略に大きな影響を与えつつあったのですが、この夏からは国策として投入された『サウジマネー』というもう1つのビッグウェーブが到来して、その相乗効果で大きな変革期が来ているのが現状です」

川端「MCOの移籍への影響というのは、要するに選手を売却して利益を出すプレーヤートレーディングの文脈の中で、株保有で影響力あるクラブに貸し出して『育てつつ試合に出して価値を上げる』みたいなやつですよね。プレミアリーグにメインのクラブを持ちつつ、ポルトガルとかベルギーのクラブも持っていて、という」

浅野「そうですね。プレーヤートレーディングの流れは僕らが初めて取り上げた2017年くらいからずっとあった傾向ですが、かつてのチェルシーのように単独クラブで大量保有するのはレンタル規制によって実質的に禁止されてしまったので、複数クラブを保有することで抱える選手の絶対数を増やし、しかも適切なカテゴリーに振り分けることで効率的に選手の価値を最大化できるわけです。そうした仕組みのメリットがクローズアップされてきているというのが現状ですね。最大の成功例はCFGだと思います」

川端「CFGが成功したからこそ、そうした動きが加速した面もあるんでしょうね。そこへさらにサウジマネーという変数が出てきた、と」

浅野「おっしゃるように圧倒的なサウジマネーが投下されることで、移籍市場がさらに活性化して、動くお金の額も大きくなっていっているわけですね。Jリーグで言えば、名古屋のマテウスがサウジに推定5億円の移籍金で買われ、名古屋が広島から森島を推定2億円の移籍金で買って、広島がマルコス・ジュニオールを横浜F・マリノスから引き抜くみたいな動きも出てきています。同じような動きがもっと大きな規模で世界中の移籍市場で起こっていると想像してもらえば、わかりやすいかもしれません」

MCOが内包するリスク

川端「こうした動きが加速した理由の1つがレンタル規制というのも納得感ありますね。ルール変更に合わせてやり方が変わるというのは、いつの時代、あらゆる分野で起こることですし。そういう点から、この号で『面白いな』と思ったのは、UEFAの大会ルール変更で同一オーナーの同一大会出場が規制されるのではないかという話。こうなると、『わざと昇格しない』『わざと出場権取れない成績にする』といった敗退行為を助長しかねないし、もうそうなりつつあるのかもなと思ったね。スポーツ的な成果を勝ち取ることじゃなくて、『選手を売って利益を得る』ことが目的なんだから。『このクラブはドイツ2部のままのほうが都合いいから昇格しないように残りの試合は負けろ』みたいなことが起きかねない」

浅野「そうした八百長まがいを防ぐ意味でも、この夏からUEFAコンペティションでクロスオーナーシップへの規制を強めたわけですしね。似たような例だと、レンタル契約で『●●試合以上出場の際は買い取り義務が発生する』などは今でもよくあるじゃないですか。昔、浅野拓磨も直面した状況ですが、その際に『買い取りのお金は用意できないから試合に出さない』という経営判断があって、監督は使いたいのに急に試合へ出られなくなるみたいなことが起きますよね。“誰を起用するか”までだったら監督の判断という言い訳もできますが、複数クラブ保有によって勝敗まで影響を受けるようになったら、それはもうただの八百長行為でしょうね」

川端「オーナーシップを『またぐ』行為はスポーツ的な要素を破壊する可能性を秘めているのは間違いないと思う。だから、サウジリーグはどうなんだろう、とも(笑)」

浅野「サウジリーグは主要4クラブが同一オーナーですからね。例えばこれでスポーツベッティングが成り立つのだろうか(笑)」

欧州王者のマンチェスター・シティからサウジ・プロリーグのアル・アハリへ移籍したリヤド・マレズ

川端「サウジアラビアでは賭博は禁止だから大丈夫、なのか?(笑)。ただ、競馬のサウジカップとかでも現地での直接的な賭けは行われていませんが、英国のブックメーカーとかのベッティングはあるから、サウジリーグもそういう対象になりそうですけど」

浅野「サウジリーグは自分たちがルールを決めればいいから大丈夫なのかもしれないけど、国際舞台、AFCチャンピオンズリーグならどうなのか。そこでクロスオーナーシップが問題になる可能性はありますよね。例えば、CFGはアジアにも複数クラブを送り込んでいますし」

川端「ACLのトップリーグは東西統合されるので、ベスト4が全部サウジみたいなパターンもあり得ますしね。そのオーナーが全部同じとか、あり得るのか……。あとはグループステージ最終節で、CFGのクラブの片方は消化試合になっていて、もう片方に突破の可能性が残る状況での対戦とかになったら……。たとえ、実際には何事も行われてなくても、疑いの眼差しを受けるのは避けられないでしょう」

浅野「でも、『大丈夫』ということにするんだろうな、そこは。今のAFCはサウジ側が主導権を握っているようだし」

川端「ACLの開催時期も中東に合わせるくらいだしね。ACLの秋春制化を『欧州に合わせる』とよく言うけど、あれは結果的にそうなっているけれど、要するに『中東に合わせる』ということですからね。向こうからすると、もともとACL創設時に『東アジアに合わせてやった』という感覚もあるわけで。日本マネーが衰退し、中華マネーも衰微した今、中東マネーが主導権を取るのも必然の流れではある」

岡山や水戸が描いている先進的ビジョン

浅野「その流れで言うと、この特集テーマを選んだ理由は今のサウジがかき回しているサッカー界の大きな流れが、間違いなくJリーグにも直接影響してくるということです。なので、この大きな流れの背景をきちんと伝えたいというのがありました」

川端「世界の市場は繋がっていますし、日本勢は同じ大会にも出るんですから当然ですね」

浅野「そうそう、日本人の海外進出の流れは加速していくだろうし、サウジ勢とはACLで直接対戦するから。だから、いち早くACLでそんなサウジ勢との対戦も経験し、選手の取り合いもしている浦和レッズの西野努TDのインタビューを川端さんにお願いすることになったわけです」

川端「J側が『怖い』とか『嫌だ』とか言っても避けられないテーマですからね。それを正面から答えてくれた西野さんには感謝です。テーマ的にはぐらかされて終わる可能性も恐れていましたが、ちゃんと今の時点での考えとビジョンを語ってもらえました」……

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Profile

川端 暁彦

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣『エル・ゴラッソ』を始め各種媒体にライターとして寄稿する他、フリーの編集者としての活動も行っている。著書に『Jの新人』(東邦出版)。

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