シーズン途中移籍でレギュラー争いに加わった松井蓮之が“ゼルビア対策”打破のカギを握る理由
ゼルビア・チャレンジング・ストーリー 第3回
町田の名を全国へ、そして世界へ轟かせんとビジョンを掲げ邁進するFC町田ゼルビア。10年以上にわたりクラブを追い続け波瀾万丈の道のりを見届けてきた郡司聡が、その挑戦の記録を紡ぐ。
第3回は、シーズン途中に加入し、定位置をつかみつつある松井蓮之(れんじ)に注目。首位クラブの激しいポジション争いに割って入ることができた経緯や、J1昇格へ向けたキーマンとなり得る理由を綴る。
失点危機を察知した瞬間、体が勝手に動き出していた。
J2第27節ジェフ千葉戦の38分だった。町田の右サイドをカウンターで進入した千葉の高木俊幸がクロスを入れると、猛然とスプリントで帰陣した松井蓮之が頭で触り、クロスの軌道を変えた。しかし、そのボールの先には髙橋壱晟がいた。再び町田にとっての失点危機――。その瞬間、髙橋のシュートを松井が左足でブロックしていた。
「絶対に失点をしないために走って行ったらボールが来た」
松井はそう言って謙遜したが、懸命なゴール前への帰陣がなければ、0-2でリードされていた町田は、もっと傷口を広げていたに違いない。
こうして守備面でのビッグプレーを披露した松井は直後の39分、今度は相手陣地に猛然と攻め入った。そして、バイタルエリアに進入すると右足でダイレクトシュートを放つ。低い弾道のシュートはGK鈴木椋大のビッグセーブに阻まれたものの、わずか1分の間に松井は攻守で大きな仕事を果たした。
しかし、絶好機に絡んだとはいえ、結果は無得点。試合後の松井は「惜しかったけど、入らないと意味がない」と吐き捨てた。
「分岐点の試合」で披露した“本番系”の顔
縦横無尽。神出鬼没。そんな形容詞がふさわしいボランチとして、町田で確固たる立ち位置を築きつつある松井だが、加入当初から順風満帆の時を過ごしてきたわけではない。
5月下旬、松井は川崎フロンターレからの育成型期限付き移籍で加入。松井にとって、町田は再起を図る場所となった。
しかし、ボランチのポジションは激戦区。加入4年目の髙江麗央を筆頭に、今季新加入の下田北斗や稲葉修土がダブルボランチ2枠のポジションを争い、ケガで離脱中だったものの、黒田剛監督の教え子でもある宇野禅斗も控えていた。加入当初の松井は、他のCB陣とともにクロス対応のポジション別練習に組み込まれることもあり、ゲーム形式の練習では、川崎在籍時代のACLで出場していた右SBでプレーする機会もあった。
汎用性の高さを評価されたのかもしれないが、加入当初の松井は前述のようにボランチのポジション争いのスタート地点に立てず、CBやSBのバックアッパーとして期待されている節があった。
5月末のこと。町田の練習場である三輪緑山ベースに、かつて帝京高で高校サッカー界の名将の名をほしいままにした古沼貞雄氏が視察に訪れていた。全体練習後、矢板中央高のアドバイザーとして松井を指導していたという古沼氏の下へ挨拶に来た黒田監督はこう言っていた。……
Profile
郡司 聡
編集者・ライター。広告代理店、編集プロダクション、エルゴラッソ編集部を経てフリーに。定点観測チームである浦和レッズとFC町田ゼルビアを中心に取材し、『エルゴラッソ』や『サッカーダイジェスト』などに寄稿。町田を中心としたWebマガジン『ゼルビアTimes』の編集長も務める。著書に『不屈のゼルビア』(スクワッド)。マイフェイバリットチームは1995年から96年途中までのベンゲル・グランパス。