【サガン鳥栖フィジカルコーチが教えるGPSデータ活用ガイド】ポジション別に「基準」がある。試合データの活用法とは?
サガン鳥栖フィジカルコーチが教えるGPSデータ活用ガイド 第4回
トッププロから育成年代まで多くの現場でGPSの導入が進んでいるが、その活用法には試行錯誤しているのが現状だ。そこで2022シーズンJリーグ首位の平均スプリント回数を記録したサガン鳥栖の野田直司フィジカルコーチが「GPSデータの活用法」をガイドする。
第4回のテーマは「試合後のGPSデータのフィードバック」について。試合データは終わった後にどう活用されるのか、それを基にしたトレーニングの組み立てなどを考えてみた。
GPSデータの蓄積が基準を作る
——野田コーチは以前からGPSデータの中でも加速と減速に注目されていますよね。
「明確な定義はまだ曖昧な部分もありますが、注目はしています。今いろんな方向からフォーカスが当たっていて、Football LABさんのデータではゴールないしはシュートに直結するアクションは急加速が多かったというものがありましたが、これも面白い視点だなと思いました。我々も今年のキャンプの時には、小川佳純コーチとシュートに至るまでの加速でZ3の数値が多くなるように、その数値が出るパターンシュートや認知や知覚で判断した上でZ3が出るようなシュートになる仕組みを考えてみたりもしました」
——(サンプルデータを見せていただいた上で)走行距離に対するハイスピードランの比率という項目がありますが、これはどういう意図でしょうか?
「ここはある意味秘伝になるのですが(笑)、こういった数字のジャッジは難しいんですよ。例えば、走行距離が10㎞でミドルスピードランが1㎞だと比率は10%になりますが、逆に走行距離が11㎞でミドルスピードランが800mだと7%くらいになります」
——これだけを比べても、どちらがいいのかわかりづらいですね。
「距離が出ているからOKなのか、ミドルスピードランの比率が低いから駄目なのか、わからなくなりますよね。逆に比率は高いけど、距離が出ていないから駄目というパターンもあるかもしれませんし、パフォーマンスを評価する上で、いろんなパターンが存在してきます。なので、もちろん単純に数値が高ければOKという認識は持っていません」
——では「何%以上」で色分けをしている理由はどういったところにありますか?
「1つには、今述べたように走行距離との関係が見たくて比率を出している部分があります。その中で、一定の%以上で区分けしている理由は、過去のシーズンも含めたデータから導き出しています。1人あたり平均で何km以上、ミドルスピードランが何%以上、加減速が何回であれば鳥栖の選手として平均という目安になりますね」
——なるほど。過去数シーズンの蓄積で目安となる数字が見えてくるわけですね。
「その通りです。合わせて標準偏差もわかりますので、加減速が何回であれば優秀といった目安もわかります。自分たちのデータの蓄積から導き出したオーダーメードの基準になりますね。同じデータがポジション別にあります」
——単純な興味なのですが、鳥栖の場合ポジションはどういう風に分けているんですか?
「特別な分け方ではないですよ。4バックのCBとSB、3バックの場合はサイドCBと中央CB、アンカー、ダブルボランチ、インサイドハーフといったように、システムごとに発生するポジションもあります。ポジションごとに平均と標準偏差を定めてあり、鳥栖のタスクだとこのポジションではこれくらいの数字は必要という風にわかるようになっています。練習生などがトレーニングに参加した時も、フィジカル的なキャパシティはこの数値が目安になります」
——かなり細かくポジションが分かれていますね。
「ポジションとタスクによって数字の出方が全然違いますから。鳥栖のボランチであれば、過去に在籍した樋口雄太や小泉慶、そして現在の河原創のデータが入っていますので、平均はかなり高めの値になっていますね」
——過去のプレーヤーの値が基準になるわけですね。偉大な先輩がいるから、鳥栖のボランチは大変だ(笑)。
「(笑)。左ウイングも岩崎悠人がいますので、走行距離の目安はかなり高くなっていますね。さらに、ハイスピードランの距離も他のポジションよりもかなり高くなっています。特にウイングはハイスピードランが求められますね」……
Profile
ジェイ
1980年生まれ、山口県出身。2019年10月よりアイキャンフライしてフリーランスという名の無職となるが、気が付けばサッカー新聞『エル・ゴラッソ』浦和担当に。footballistaには2018年6月より不定期寄稿。心のクラブはレノファ山口、リーズ・ユナイテッド、アイルランド代表。