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『センスのある選手』から『真に怖い選手』に。覚醒前夜の鎌田大夢と、彼を見守る多くのまなざし

2023.06.14

ベガルタ・ピッチサイドリポート第2回

もう“センス”だけの選手ではなくなりつつある。ベガルタ仙台で定位置を掴みつつある、鎌田大夢の成長が目覚ましい。そのことを認めたサポーターが個人チャントを贈ると、それに応えるかのように本人もユアスタでJ2初ゴールを記録。ベガルタの32番は確実にさらなる飛躍の階段を上っている。そんな彼の周りには、実に多くの人が集まり、その活躍を見守っているという。今回はおなじみの村林いづみが、そんな鎌田に寄せられる期待をさまざまな角度からあぶり出す。

J2初ゴール。もみくちゃにされながら聞いた自分の応援歌

 そろそろ、という兆しはあった。10試合先発出場でチームの核になりつつあった彼へ、ベガルタ仙台サポーターが期待を込めて“新しい個人チャント”を贈った。その次の試合で、我らの鎌田大夢が遂にJ2初ゴールを決めた。ホーム・ユアテックスタジアム仙台で、誰もがこの時を待っていた。

 ゴールネットが揺れて、スタンドのサポーターは波打った。第18節・ジェフユナイテッド千葉戦の前半33分、ベガルタ仙台の2点目となったこのシーンは、選手たちがテンポ良くパスをつなぎ相手を完璧に崩して生まれたゴールだった。鎌田は相手の厳しい守備を背中で受けながら右サイドに正確なパスを出す。動き直して中央フリーでボールを受けると、もう一度外へ。真瀬拓海がドリブルで駆け上がり、この日すでに1ゴールをマークしていた中島元彦がニアに走り込みDFを3人引き付けてくれた。 

J2第18節ベガルタ仙台対ジェフユナイテッド千葉戦のハイライト動画

 「真瀬君が触るだけの良いボールをくれた」と味方のお膳立てに感謝するが、何といっても鎌田のポジション取りは完璧だった。ペナルティーエリア中央に現れた“花道”。仙台が作り出した、そして千葉の守備陣が埋められなかった絶妙なスポットに走り込み、左足インサイドでそっと触れた。するとボールは機嫌良くゴール左隅に収まってくれた。

 右手で2度ガッツポーズ。すぐに山田寛人が、郷家友太が左右から「祝福のヘッドロック」をお見舞いした。その上から松下佳貴が乗っかってきた。はるか遠くDFラインから菅田真啓までもが駆け付けた。「大夢がゴールを決めても、誰も絶対に(祝いに)行かんとこ(笑)」そう冗談めかした中島さえも、ちゃんと祝っていた。いや、みんな祝いたかったのだ。歓声に満ちたユアスタで、サラサラの髪をぐちゃぐちゃに乱されながら、鎌田はリーグ戦初ゴールの味を噛みしめていた。スタジアムに響く真新しい応援歌。「格好良いと思っていたので、たくさん歌ってもらえるように頑張りたい」21歳の笑顔が弾けた。

郷家友太(左)と山田寛人(右)から手荒い祝福を受ける鎌田大夢(中央)(Photo: Vegalta Sendai)

「大夢はいつまでも、ウチの子」鎌田が活躍しなければいけない理由

 昌平高校を卒業し、2020年にJ3の福島ユナイテッドFCへ加入した。2シーズンを戦い、2022年の開幕を迎えようとしていた時に発表された鎌田大夢のベガルタ仙台への完全移籍加入。福島ではチームの主軸として活躍し、プロ3年目のシーズンを迎えようとしていた時だった。クラブが彼に与えた背番号は「10」。サッカーに関わる者ならば、その重さは言わなくてもわかる。サポーターや仲間の期待を一身に背負った鎌田のJ2仙台入りは物議を醸すか……に思われた。……

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Profile

村林 いづみ

フリーアナウンサー、ライター。2007年よりスカパー!やDAZNでベガルタ仙台を中心に試合中継のピッチリポーターを務める。ベガルタ仙台の節目にはだいたいピッチサイドで涙ぐみ、祝杯と勝利のヒーローインタビューを何よりも楽しみに生きる。かつてスカパー!で好評を博した「ベガッ太さんとの夫婦漫才」をどこかで復活させたいと画策している。

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